第3話 出くわしたから歩こう少年

 

 カツアゲだとおもったら食事のお誘いだった事件から1日後。

 いつも通り電車に乗って、いつもの席に座ってたら昨日と同じく藤山さんに会いました。

 昨日と同じでは無い所は、何故か俺の隣の席に座っていることです。

 まあ…昨日あんなことがあったらそりゃ立ちたくはないよな。


「梨乃川君はいつもこの電車に?」

「うん」


 なぜ自分はさん付けしないでって言ってるのに俺に君を付けるのかは不思議ですね。

 これが上下関係ってか。


「ふーん」


 なんで聞いたのにそんな無関心な言葉を選ぶのですか。不思議ですね。


「藤山は昨日と今日でこの電車に乗るけど、俺と家近いのかな」

「ん、一昨日引っ越してきた」


 なるほど、だから急に藤山さんがこの電車に現れたのか。


「…」


 何故か急に黙ってこっちを睨んでくる。

 え?なんか悪いことした?


「そ、その…」

「…なに」

「梨乃川君って…」

「うん」


 急にオドオドしだした。


「す、す…す――」


 何故か『す』を連呼する藤山さん。


「好き…な人っていないの?」

「…好きな人…?」


 果たしてそれはライクかラブなのかはわからないけど…。


「妹」

「え?」


 ライクだったら妹だな。


「い、妹…シスコン」


 し、シスコン!?…いや、他から見ればシスコンなのか?ライクだったらそうだけど。


「妹っているんだ」

「おう」

「それって…義理?」

「違うぞ」

「え!?」


 びっくりした。急に大声出すなよ…。

 ほら、周りの目集めちゃってる。


「屋根の下でずっと一緒に暮らして好きなんだ」

「え?…ああ、いや、今は違うぞ」

「え?好きじゃないの?」

「ちがう、今も好きだけど、一緒に暮らしてはいない」


 俺は今、一人暮らしだ。

 まあ…特に用事は無いのだが、一人暮らししたいな…って思って親に頼んだらOKがでた。


 何故か両親がニヤニヤしていたのが印象に残っていたが、よく分からなかった。


「へ、へぇ…」


 相変わらず無関心な言葉を選んで下を向く藤山さん。

 あれ?なんか急に元気なくなってる。


「もうそろ着くぞ」

「…ほんとだ」






 電車からでた後、俺と藤山さんは並んで一緒に学校へ向かう。

 カースト最上位の藤山さんと並んで歩いていたからか、周りの目が少々痛かった。

 そりゃ…最底辺が最上位と並んで通学していたらどうなってんだ…と思うよな。


 校門を通り抜け、昇降口に行こうとした時――


「藤山さん!おはよう!今日も綺麗ですね!」

「藤山さんおはようございます!相変わらず可愛いっす!」


 なんだこれぇ。

 気持ち悪いな。


「おはよう」


 と、藤山さんは変な笑顔で手を胸のところにやって挨拶をしていた。


「変な笑顔だな」

「…しょうがないでしょ、知らない人から挨拶されたんだもん。オマケに可愛いとか綺麗とか言われて」


 えぇ?知らない人だったの?ただの変態じゃん。


「藤山さん!そいつ誰っすか?」


 と、さっき可愛いとか言っていた人が急に近づいてきて暗い笑顔で言う。こわいな。


「たまたま出くわしたの」

「…たまたま出くわして一緒に歩くんっすか?」


 なんだ『んっすか』って。


「えぇ…そうよ?」

「じゃ、じゃあ…僕も出くわしたんで一緒に歩いても?」


 凄い誘いだな。『出くわしたんで歩こう』って。

 ナンパ王もびっくり。


「え?いや、だって学校すぐそこでしょ?」


 と、藤山さんは言う。だが、出くわしたんで歩こう少年は下がらない。

 なんか面白いな。


「そもそも、そいつ誰なんすか?」

「私の恩人」


 恩人…?ああ、痴漢の事か。


「お、恩人?」

「そう、助けてくれたのよ」


 なんか…今思ったけど、喋り方がお嬢様みたいだな…俺の時はもっとこう…『The女の子』っぽい喋り方なのに。

 なんでだ?


 すると、出くわしたんで歩こう少年は俺の事を物凄く睨んできた。

 俺最近睨まれること多くない?


「…覚えとけよ」


 睨まれたあと、俺にしか聞こえない声でそう言われた。

 何を覚えておくんだよ…怖ぇよ。


 そして出くわしたんで歩こう少年は去っていく。


 怖ぇよ。と、2回思った。



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