第2話 カツアゲ

 

 いま、俺はカツアゲされそうです。

 どこに連れていかれるのでしょうか。


「ど、どこに行くんです…?」

「…」


 なんで黙ってんの?ねぇ。


「…」

「…」


 …


 なんか喋って。

 気まずいじゃん。


「なんで敬語なの?」

「はい?」


 なんで敬語って…そりゃ、カースト的に。


「電車の時は敬語じゃなかった」


 …カースト最底辺にが最上位にタメ語を使ってしまった。

 俺は頭を抱え、間違えを反省する。


「ご、ごめんなさい」

「…だから、敬語はやめて」


 そうは言ってもだな


「だって――」

「いいから」


 藤山さんは俺を睨んでくる。


「…うん」

 

 俺は怖すぎて肯定しか出来なかった。


「どうせ上下関係がとか何とか思ってるんでしょ」


 藤山さんは俺をちょっとだけ睨んで、呆れたような声と顔で言ってくる。


「そういうの、嫌だから」


 どこか寂しい様子で、目をそらす。

 その仕草が、ちょっと印象に残った。


 まあ、今からカツアゲされるのには変わりないんですけどね。


「着いた。入って」


 藤山さんは…多目的室という所の前で止まって、俺を入らせようとする。

 か、カツアゲ…確かに多目的室には全っぜん人気がない。


「…うん」


 俺は怯えながらカクカク多目的室に入る。

 後ろにいる藤山さんはどういう顔をしているのだろうか。

 笑っているのだろうか。『カツアゲするぜ』みたいな顔になっているのだろうか。


「…食べよ」


 …俺を!?食っても美味しくないぞ!?


 そう思って、俺は後ろを向く。

 …すると、藤山さんの顔は、俺が予想しているのと全然違う顔をしていた。

 顔は全体的に赤く、手の指で髪の毛をいじくりまくっている。


 そ、相当アドレナリンが出ているのだろうか。俺をカツアゲするのそんなに楽しみなの?


「何してるの…?」


 俺が固まっていると、藤山さんは目を逸らしながら俺に言う。『何してるの』の意味は、『早く来いよ』なのだろうか。


「…それで、俺をここに呼んだ理由は?」


『カツアゲ』という言葉が出るのだろう。と思って、聞いてみる。


「…一緒に食べよ?」




 …は?俺を?

 いや違うか…食事をか。


『罠だ』と、俺の脳内でそういう言葉がマッハで出てきた。

 美人局だ。絶対そうだ。

 顔を赤くしているのは、演技で男をその気にさせて金を要求するのだろう。

 俺は騙されない。


「あ、用事が出来た」


 俺は適当な理由を着いてこの場を離れようとする。


 ――!?…な、なんなんだ。


 離れようとした時、藤山さんは俺の服を掴んで、


「…だめ?」


 と、上目遣いで聞いてきた。



 …



「…………いいよ」


 その上目には逆らえない自分がいた。





「それ、自分で作ってるの?」


 藤山さんは、俺が食べている途中で聞いてきた。


「ん…ああ、俺が作ってる」

「ふーん」


 と、『興味ないね』と言うような顔をしてこっちをずーっと見てくる。

 ソルジャーかな。


「…なに?」


 視線に耐えきれなくなって、聞く。

 ずっと見られるのはキツい。ましてや美女に。


「いや、良く作れるな…って」

「藤山さんは作らないの?」

「…」


 あれ、黙った。

 こういう時は、なにか要求される…金か!


「藤山…」


 と、ぼそっと藤山さんは吐いた。


「え?」

「さん はいらない。藤山でいい」


 …超絶美女をさん付け無しってハードルめちゃくちゃ高いな。


「…わ、わかった…よ」


「うん」と言って、藤山さんは俺をまだ見てくる。なんだ!まだ要求されるのか!?おれは!


「…? 早く」


 …? 何を早くするんだ?


「…呼んでよ」

「なにを?」

「その…あの…私の名前」


 これはあれかな。呼んだ途端厳つい人達が来て、金を要求されるのかな。


「ヤダ」

「なんで」

「やだったらヤダ」


 そう言うと、藤山さんは俺を睨んできて、目を潤す…え?泣く!?やばい、呼んでも呼ばなくても厳つい人達出るんじゃ!?


「ふ、藤山」


 というと、藤山さんは俺を見て、花が早送りして咲いたと同じように笑顔になった。


 俺は死を覚悟して目をつぶる。

 厳つい人達が出てこないことを願って。


 …。


「何してるの?」

「ん?え?」


 目を開けると、目の前には首を傾げてこちらを見ている藤山さん。

 あれ?厳つい人達は?


「…食べないの?」


 そう言われて、俺は時間を見る。

 あ、やべ…まだ全然食べきれてねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る