乙女ゲームの悪役令嬢になったので こちらから婚約破棄いたしますわ!

柚子猫

乙女ゲームの悪役令嬢になったので こちらから婚約破棄いたしますわ!


「婚約破棄ですわ。わたくし、アナタとの婚約を破棄させていただきます!」


 昼下がりの王宮の庭園。

 私は、大きな声でこう宣言した。


 だって私は知っている。

 ここが乙女ゲームの世界で、私はその悪役令嬢なことを。


 物語では、王子が庶民の娘に心惹かれて。私が嫉妬して嫌がらせして。

 最終的に断罪イベントみたいなことがおきて、私は国外追放になっちゃう。


 でも、どうせフラれるんだったら。

 こっちから別れれば、断罪イベントとか回避できるんじゃない?

 ふふふ、私ってなんて頭がキレるのかしら!

 転生者をなめないでよね!



 呆然としていた顔の王子が口を開く。

 さぁ、どんな返事が返ってくるのかしら。


「アリシア……それは無理だよ。こんなこと本人同士で決められないよ」


 なにそれの返事。

 想定外だわ。


 あっさり、了承してくれると思ってたのに。

 あれね、断罪してからじゃないと別れてあげないみたいな感じなのね。

 くー、これがゲーム補正ってやつかしら。


「キミが何を考えてるのか想像もしたくないけど……小さい頃から、これで何度目だい?」

「回数なんて関係ありませんわ! 今回こそ本気ですから!」


 王子が深いため息をつく。

 

「キミは、ボクの事が嫌いなのかな?」


 そんなに、顔を近づけないで。

 王子は、すごくかっこいいんだから。

 

「……き。きらいではないですけど」

「じゃあ、なんの問題もないよね?」

「そういう問題ではありませんの!」


「アリシア様~、こんなところにいたんですね」

 

 砂糖菓子みたいな、甘い声が聞こえる。

 出たな!

 庶民出身のヒロイン、ユキ・フォールレント!


 だいたい、見た目も名前も日本人なのに、なんでフォールレントなんて貴族っぽい名前なのよ!

 黒髪キレイだし、大きなパッチリした瞳も可愛らしいし。 

 嫌いじゃないけど! すごくかわいいし! さすがヒロインよね!


 ユキは、私に近づくと、抱きついてきた。

 ちょっと。

 この子はなんで毎回こうなの!


 はっ! やきもち!

 こうやって王子にやきもちを焼かせようとしているのね!

 なんてあざとい!


「王子様なんてほっといて、一緒に街に出かけませんか?」

「前にも言ったけど、ユキ。アリシアはボクの婚約者だからね?」


 熱く見つめあう、王子とユキ。

 これが、恋! 恋なのね!

 お邪魔したら死刑になるんじゃない、これ。


「それでは、わたくしはこれで。次は絶対、破棄して見せますから!」

「アリシア……一体何が君をそこまでさせるんだい。ボクは小さいころから君だけを……」

「おっと、続きは必要ありませんわ、あとは若いお二人でお楽しみくださいませ」


 優雅にお辞儀をして、その場をさることにする。

 はぁ、今日も死刑フラグを回収できなかったんですけど。


「アリシア様~、まってくださいー」

「アリシア、話を聞いてくれ!」


 ふぅ、いつになったら幸せになれるのかしら。 

 

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乙女ゲームの悪役令嬢になったので こちらから婚約破棄いたしますわ! 柚子猫 @yuzu-neko

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