第7話アデル・ラズリと

___翌週。



「アデル様」

「あ、ルチア嬢」


本を借りた翌週。ラメアに少しのお休みをいただき、私は図書館へとやってきた。

もちろん、アデル様に本を返すためです。

…アデル様が入れ違いにならなくて良かった。


「この前は本を貸していただき、ありがとうございました。とても面白かったです」

「気に入られたようでなによりです。」


本を返せば、微笑むアデル様。

嬉しそうに目を細めて本へと視線を下ろし、挟まれている青い紐に気づく。


「あれ?これは…」

「お礼です。本当に、大したものではない…なさすぎるんですけども…お菓子などを買うことは禁止されてまして。すみません」


本に挟んであったのは、栞。

ラメアと共に試作品を作った時にできたものです。

私が作ったのは絵の栞で、青系統の色の花の模様を描いてみました!


「…」


何やら唖然としてらっしゃるアデル様…あ、もしかして栞の模様が嫌でしたか?

そもそも、栞使わないとか!?


「あ、ああの、アデル様っ!お気に召さないようでしたら、捨てますので」


慌ててそう言えば


「捨てる!?勿体無いですよ!」


返ってくる、焦った声。


「ひ!?え、あ、そうですよね!」

「あ…失礼。女性に声を荒げてしまいましたね」

「こちらこそ、すみません…」


落ち着きを取り戻した後はお互いに謝り、静かになりました。

アデル様は何やらじっくりと栞を見て、私の方を向き


「素敵な絵ですね。これはルチア嬢が?」


優しい笑みを浮かべながら、そう聞いてきてくれた。

それになんとなく嬉しくなり、笑顔で答える。


「はい。ラメアが、フランチェスカ殿下にプレゼントをあげる…といった時に、です」

「あの栞でしたか」

「知ってるんですか?」


私が言えば、納得したように頷くアデル様。

首を傾げて聞けば、もう一度頷いて続きを話す。


「フランチェスカ王子の友人は、エドワード・バドファルなどが有名かもしれませんが、一応俺も公爵家の子供だから王子と面識はあるんですよ」

「考えてみれば、そうですよね」

「まぁ、俺は普段から書庫か図書館にこもりっきりですから、王子以前に誰かと会うことが珍しいんですがね」


そう言って、苦笑をするアデル様。


「それで、この前久しぶりに王宮へ行った時」



『これ、俺の婚約者候補から貰ったんだ。綺麗だよな』



「と、おっしゃっていたのを知っていたので、ラメア嬢の栞のことを少し知ってるんですよ」

「そうだったんですね」


たしかに、私が今回アデル様にあげたやつはラメアと模様が違えど、型紙が同じ形ですね。

うん。すぐわかりそう。


「ありがとうございます。嬉しいです。大切にしますね」

「あ、いえ!お礼を言うのはむしろこちらの方で……でも、気に入っていただけたようでなによりです」


__________


それから少し話し(次もまた本を紹介してもらうことになりました!)アデル様は用事があるとのことなのでまた今度、とわかれました。


「次はどんな本を紹介してもらえるのでしょうか…楽しみですね」


「あ、は、はじめましてっ」


…ん?

庭園の方から…ですかね?


「…バレなきゃ覗きじゃありませんよ〜」


少し盗み聞きしてみましょう…ふふふ!

出来るだけ足音を立てずに庭園の方へ…


「ルチア?何をしてらっしゃるの?」

「ひわぁ!?ラメア!」


まさかのラメアご登場!突然話しかけないでくださいよ!心臓が飛び出ますよ!!


「び、びっくりしました…ラメア。どうしましたか?」

「それはこっちのセリフだわ。どうしたの?」

「…“なんか、庭園の方から声がしたので…”」

「あら…“気を使っていたのね。ごめんなさい、驚かせてしまって”」


小声で話せば、すぐに状況を察して自分も小声で話してくれるラメア。

純粋ないい子…特に最近は丸くなってきているので、ラメアは本当にモテ始めましたね。


「…ルチア。わたくしとお茶をしない?今日こそはお菓子を食べてもらうわよ」

「ラメア。何度も言ってるじゃないですか。うち、お菓子は禁止なんですって…」

「買うのは、でしょう?費用はルリール公爵家の持ちよ」


そんなことを話しながら、校舎の方へ行く。


庭園にいたのが、誰かも知らずに。

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