第6話おすすめの本

「うーん…」


本を選んでくるとは言ったものの…さっきの絵本以外、読みたくなるものがありませんね。


「こっち側は難しそうですし…初等部生用のはあっちですかね」


この図書館は初等部生以外にも、中等部生、高等部生が使うため、本の区画がある程度分かれている。

でも、図書館にあまり来たことのない私は、何が何だかサッパリです。


「うーん…うーん…」


背表紙の色が…ぐるぐるしてきました…。

本の匂いって心地いい時もありますが、ずっと嗅いでると気持ち悪くなります…うぅ。


「おい………ねぇ」

「ふぁ?え、は、はい」


本棚に掴まりながら立っていると、後ろから声が…って、先ほどのメガネ男子じゃありませんか。


「どうかしましたか?」

「…本、探してるんでしょう?俺のおすすめはどうですか?」

「…あなたのおすすめ、ですか?」


見ると、彼の片手には本が一冊。

緑の背表紙に金字で題名が書いてある、そんな本。


「これ、表現もとてもわかりやすいし、ストーリーも面白いのでおすすめです」

「挿絵が綺麗ですね…!」


手渡されたそれを開いて見てみる。

カラフルで綺麗な挿絵があったりして、とても綺麗です!


「あ、私はルチア・フェルメスと言います。フェルメス子爵家の娘です」

「ご挨拶遅れました。アデル・ラズリ。ラズリ公爵家の末子です。」


………ら、ラズリ公爵!?


「ラズリ公爵家の方だとは知らず、すみません…」

「いいですよ。最初に嫌な態度をとったのは俺ですし…フェルメス子爵家のご令嬢でしたか…」

「は、はい」

「…今日はもう帰ったほうがいいですよ。雨が降りそうです。本は俺の私物ですので、読み終えたら返しにきていただければ助かります。」

「あ、はい。では、お気をつけて」

「えぇ」


同じ12歳とは思えません…ん?



「私物!?」



______

____

__



アデル様に借りた本は、とても面白いお話でした。

とある国のお姫様が、冒険をするお話。

旅の途中で他の国の王子様に出会ったり、盗賊と戦ったり、仲間を失ったり…。


「本って、こんなに面白いものだったんですねぇ…ふふっ。続きがあれば読んでみたいです!」


真白いシーツ。一つの枕。

シンプルな木のベッドに、同じく木の机。

百合の花の形のランプに、メリーゴーランドのオルゴール。

洋服や荷物が入っている箪笥が一つ。


これが、私の部屋。

改めて見回すと、殺風景な部屋だ。

前に行ったラメアの部屋は、それは豪華で広くて…私の部屋が5部屋ほど入りそうなくらいだった。


「…はぁ。寝ましょうか」


本を机の上に置いて、最近伸ばし始めた髪を結ぶ。

これは、まぁ、願掛けですね。

死なないための願掛け。

殿下たちと離れられるようになる願掛け。

いろんな意味があります。


ふと、鏡にうつったのは、金色の髪に灰色の目の…私。

母が歌ってくれた子守歌を思い出す。




はいいろおめめに、きんいろおぐし。

かわゆいかわゆい、たからもの。

そのおめめは、きれいなおいし。

そのおぐしは、きれいなおつき。

かわゆいかわゆい、わたしのこ。

どうかおやすみ、おやすみよ。


幼い頃の、母の歌。

今じゃ聞けない、私のたからもの。


「…私が、もっと可愛かったら良かったのかな」


髪を切りたいなんて言いださなければ。

ドレスが嫌だと言わなければ。

あのまま、幼いあの頃のまま、止まっていられたら。


私はもっと、愛されたのでしょうか。


「…よし。寝ましょう」


このまま考えていても、何も始まらないし終わらない。

初等部卒業まであと半年ほど。

殿下たちと出会い、行動する時になるまで、あと1年ほどしかないのだから。


1秒たりとも無駄にできない。





あぁ、あいたいな。



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