第8話ラメア・ルリールと

「ミニケーキよ。食べなさい」

「…美味しそうですが、このケーキたちは私に食べられるより、ラメアに食べてもらえた方が嬉しいと思いますよ」

「体重が増えたの。ダイエットよ」

「12歳でそれ言いますか?」

「あなたも同い年よ」


なんとも言えない会話をする私とラメア。

白いレースのテーブルクロスの上には、宝石のようにキラキラ輝き、色豊かなお菓子が並んでいる。

ティーカップとティーポットは白地に金の模様、可愛らしいピンクの花の柄。

猫足で立っていて…高そうだ。


「あのね?ルチア」

「はい」

「わたくし、あなたにたくさんの八つ当たりをしましたわ」

「それが下僕ですから」

「………さぁ、食べなさい」

「むぐっ」


話が読めないのですが…というより、食べちゃった。ピンクのムースが見えたから、いちごのケーキですかね?


「っわぁ…甘い…!」


人生初のケーキ、です…!

甘い!すごくすごく甘い!なんですかこの甘さ!すごく美味しい!!


「…ルチア」

「はい?」

「ルチア、ごめんなさいね。あなたの優しさに浸かっていたわ。ルチア、わたしの友達」

「え、えっと、ラメア?」


ど、どうしましょう…ラメアが、なんか、スイッチ外れちゃいました…

やっぱり、私がケーキを食べたから、とか…


「………………ルチア」

「はい。どうしましたか?ラメア」

「今度、わたくしの家にお泊まりしない?」

「……???」

「ルリール公爵家にいらっしゃい。女子会をしましょう」


わっつ?

何故女子会?


「ねぇルチア。わたしが何故あなたに謝っているのかわかる?」

「……私がケーキを食べたからでしょうか」

「…ふふっ。ねぇ?ルチア、ほら、わからないでしょう?だから、代わりに女子会をしましょう」


代わりにって…なんで女子会が、私が謝ってる意味をわかってない代わりになるのでしょうか…


うーん、でも


「ラメアが嬉しいのなら、それが一番ですよ」


私がそう言えば、ラメアは大きなサファイアの様な瞳を見開き、次いで悲しそうに笑った。


「ルチア。わたしのお友達。可哀想にね。あなたは、わからないんだわ。…いえ違う。忘れようとしてるのかしら?」

「?…何のことですか?」


___あなたの、ルチアの心のことよ、とラメアは言う。

私の心?忘れようとしている?

何のことでしょうか…さっぱり…


「わたくしね、人の感情を読むのがすごく得意なの。そう言うお呪いよ…ルチアの心は、感情は、すごく何かを恐れてる。その奥に…すごくあたたかくて、でも寂しくて…愛情見たいなものが見えるわ」

「…」


愛情?

あいじょう。

恐れてる?

おそれてる。


私は、死ぬのを恐れてる。

だって、痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。

前みたいに、知らない男の腕の中で死にたくない。冷たい中、独りで死にたくはない。


もう、ひとりはじゅうぶんだ。



パンパンッ


「!」


何かと思えば、ラメアは手を叩いた音だった。

ラメアはずっと、悲しそうに微笑んだまま。


「わたくし、やり方を間違ってましたわ。いつか、あなたが分かったら…怒ってちょうだいね」

「?……わかりました」


とりあえず頷いておく。

今はわからないもの。そのうち分かるはず…かな?


「そうだわ。それはそうと、ルチア。あなた、魔法会補助委員に選ばれてるのはご存知?」

「…魔法会補助委員?」

「ほら、今年の魔法会員は多いけれど、それでも10人弱でしょう?毎年のことだけれど、成績素行優秀者が補助委員に選ばれるのよ。あなた、候補になってますわよ」

「…」


…魔法会、補助委員…。

それって、王子たちとも関わるってことですか…?


「ラメア、それって…断ることもできますか?」

「え?…えぇ、断ることもできるわ。個人の意思が尊重されますから…そんなに嫌なの?」

「死ぬかもしれないので」

「えぇ!?」


…なんか、嫌な視線を感じますねぇ…


「!」

「!!」


振り向けば、赤い御髪に、木のお目目。

あの人は


「王子…?」


何故ここにいるのでしょう。



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