第4話ちょっとしたいじめ

「ルチアさん?少し良いかしら」

「はい…ラメアさん?」


休み時間。ルチアに声をかけたのは、輝く金髪に赤いリボンをつけた、人形のように美しく、愛らしいと噂の可憐な令嬢。名は、ラメア・ルリール。


ルリール公爵家の愛娘だった。


__________


「ごめんなさい、突然話しかけて」

「いえ、大丈夫ですよ。それより、お茶が冷めてしまいますよ」


少し寂しげな微笑みを浮かべ、謝罪をするラメア。ルチアも笑みを浮かべお茶を促す。


ラメアにお茶に誘われたルチアは、特に何事もなく、中庭でお茶菓子を静かに食べていた。

ここに来るまで話してはいなかったが、ルチアはフェルメス子爵家の娘だ。対して、ラメアは公爵家の娘。お茶も何も断れるはずがなかった。


「あのですね…少しお話があって、ルチアさんをお呼びしたの」

「私なんかで良いのでしたら、どうぞお話ください」


仮面のように張り付いた笑みを浮かべながら、話の続きを促すルチア。

ラメアはふわっと笑い、


「ルチアさん。わたくしの…」

「はい」




「わたくしの、下僕になって?」




その顔に似合わない、どす黒い言葉を吐いた。


ルチアは少ししてから、静かに息を吐く。

予想はしていた。前々から目をつけられていたし、前回でもそれはあった。

しかし、前回はいじめになる前にフランチェスカたちと出会い、魔法会の庇護下に入ったので酷くはならなかった。

けれど、今は違う。

ルチアは全ての感情を一旦閉じ込め、ゆっくりとラメアに聞く。


「下僕…とは、どんなものでしょうか。ラメアさん」

「うふふ。なってくれるの?」

「説明をしていただければ、選択肢に入れます」

「あらぁ」


意外…と言うようにクスクスと笑うラメア。

何の感情も動かさないルチアを笑ったのだろうか。


少し考えるような仕草をしてから、ラメアは答える。


「下僕とは…そうですね。わたくしの憂さ晴らし係ですわ…ふふっ。ねぇ、素敵だと思わない?あなたがわたくしに殴られるだけで、御実家にお金が入るのよ?」

「…さすがは公爵様。そこも把握してらっしゃるのですね」


ルチアの家、フェルメス子爵家は、いわゆる貧乏貴族だ。

子供にも互いにも無関心な当主夫妻は、外に愛人を作り、本邸にはほぼ帰ってこない。

要は散財だ。

常にフェルメス家はお金を必要としていた。


「えぇ。知ってるわ。“お友達”のことだもの」


先ほどまでは下僕と言っていたのに、今度はお友達という単語を強調してくるラメア。

少し視線を動かせば、通路を歩く王子たちの姿。

なるほど、と考える。

そして、ラメアに手を差し出し


「ラメアさん。お友達になりましょう。恋路も応援させていただきますわ」


令嬢モードのスイッチを一気に入れた。

ここで断れば、あらぬ噂を流されたり、最悪家が潰されるかもしれない。そう考えたのだ。

少しの間ポカン、としていたラメアは、ルチアの言葉を理解するとニコッと笑った。


「あらぁ…それは嬉しいですわぁ。ふふっ」


お友達という名の、いじめ関係。


早速、ルチアの足が踏まれていた。

些細なものである。



______

____

__



「…」

「どうした?フラン」

「…あぁ、いや…エド。あの地味なドレスの方の令嬢、見たことあるか?」


フラン…王子の愛称を呼ぶ茶髪の少年、エドワードと、赤い髪にダークブラウンの瞳の少年、フランチェスカ。

2人の視線の先には、仲良くお茶をする2人の令嬢。…ラメアとルチアだ。


「…あぁ、フェルメス子爵家の娘さんだよ。パーティーには少ししか出ないから、フランが知らないのも無理はない」


2人の方を見ながらそう言うエドワード。

フランチェスカも、令嬢2人…ルチアから視線を離せずにいた。



「どこかで、会ったことのあるような…」



その違和感がわかるのは、まだ、先のこと。



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