第2話終わりだった

私が【王立学園高等部】に入学して一年。魔法会に入会して半年が過ぎた頃。


学園に転入生がやってきた。


ロリア男爵という男爵家の娘さんらしかった。

裕福な領地では無かったため、学園に入学することを諦めていたが、魔法が使えるようになった娘さんを入学させるよう、学園から手紙が来たのだと周りが語っていた。


魔法を使えるということは、魔法会に入るということ。新しい仲間が増えることに、私はワクワクしていた。



転入生、名を【ラリア・ロリア】さんと言った。

ピンク色の肩ほどまであるふわふわの髪を、いわゆるツーサイドアップという髪型にして、黄色い花と赤いリボンの髪留めで結んでいる、可愛らしい子。

黄色いその瞳は、蜂蜜のようにキラキラとしていて、何を見ても甘そうにとろけていた。


体格は小柄で、私より頭半分ほど小さかった。魔法会の女子のみんなはラリアさんをとても可愛がったし、男子のみんなも守るようにして過ごしていた。


それから、3ヶ月ほどした時。気づいた。


みんなから、避けられている。

理由がわからなかった。心当たりが無かった。

かといって聞く勇気は私には無かった。そこまで踏み込んで良いものかと、勝手に悩んでいたから。


そして気づけば、周りも私を避けていた。

生徒も、教師も、貴族も、みんな。

無視するとか、そんなのではない。私とて、一応貴族。ただただ、余所余所しい態度だった。



泣きたくはなった。けど、その時はまだ信じられていた。魔法会のみんなを。

彼らならきっと、と盲目的に思っていた。


でも、そんなことは有り得なくて。


話しかけても、帰ってくるのは遠回りな、けれど確かな拒絶。その瞳に揺れる感情は、確かな軽蔑。

私の「何故」や「どうして」は、聞き入れられることはなかった。

彼らの中で、私はどうしようもなく悪役だった。



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私は結局、自分が避けられている理由を知らずに終わった。

何が終わったか?…人生ですよ。私の。


いつかの放課後だ。

一人で歩いて帰宅しているところを、誰かに連れ去られた。ご丁寧に、薬で眠らされて。

気づくとそこは暗い地下室。

光は天井近くにある小窓からのもののみで、私は鎖で手足を繋がれていた。

ジャラジャラ、ジャラジャラ、動くたびに音がする。


それからどのくらいが経ったかわからなかったけど、人が来た。

表すなら、豚のような男。

太っちょで、脂ギッシュで、土で汚れていて、不潔そうだった。

男は一言も発さず、私を殴った。蹴った。

髪を引っ張って、頬を殴り、腹を蹴り。それはもう、思いつく限りの暴力を振るわれた。


鎖が痛い。繋がれている手足が擦れて痛い。殴られた箇所が痛い。

全部が痛かった。でも、涙を流そうとも男は何も感じないかのように、一心不乱に私を殴る。

女である私が、“そういうこと”をされなかったのは幸いか。


男はほぼ毎日来て、ひとしきり殴った後パンを一切れ置いていく。そしてまた、しばらくすると来る。

その繰り返しだった。


泣き叫ぼうとも、殴られる。

助けを乞うにも、蹴られる。


そして、どれくらいの時間が経ったのか、私は生き絶える。

死ぬな、と思った次に考えたことは



(あぁ…どうせなら、あの人の腕の中が良かった…)


(死ぬのなら、せめて死ぬのなら、あの人たちに殺して欲しかった…)



そう思う私は、とてもワガママだ。



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バタン。

力なく少女が倒れた。男は興味無さげに少女を、ルチアを見ている。

どうやら、死んだようだった。


散々殴ったからな、仕方がない。


男はそうでも思っているかのように肩をすくめる。


そして地下室を出ると。




建物に火をつけた。



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