あの人の腕の中で。

ひかげ

転生した、その理由

第1話始まりだった

私、ルチア・フェルメスはどこにでもいるような普通の貴族令嬢だった。

ダンスも、勉学も、礼儀作法も、全て完璧…とは言えなかったが、できた。

家族からは「貴族社会に出ても恥は無い」と言われるほどに、令嬢としては出来ていた。


朝起きて、学園へ行き、学友と喋り、昼食を食べ、勉強し、家に帰る。

そんな毎日を送るごく普通の平凡な令嬢だった。

唯一得意といえば、おまじない。

恋愛のおまじない。幸運のおまじない。様々なおまじないを作るのが得意だった。

おまじないとは何か?…あぁ、この世界について話さなければですね。

私が住む世界には、魔力というものがあって。魔力があれば、魔法もあった。

といっても、魔法を使えるのは魔力の純度が高い人たちだけで、私が知る限り同世代で魔法を使えるのは10人にも満たなかった。


おまじないというのは、魔法の下位変換のようなもの。魔力は多かれ少なかれ誰にでもあるものなので、誰だって練習すればおまじないくらいできるのだ。

で、まぁ…平凡な私は、そのおまじないというのが得意だった。

綺麗な石や、人形などを手で包み込み、ただ祈るだけ。それでおまじないは完了だ。

祈るときに、叶えたいものを思い浮かべなければならないけれど。

それが特技であり、趣味でもあった。


そんな、平凡で若干暗い私の人生が変わったのは、彼に、彼らに出会った時。


【フランチェスカ・ルテルグ】。ルテルグ王家の長男で、要は私が住んでいる国の第一王子様。

彼は私が通っている【王立学園高等部】の魔法会(生徒会のようなもの)の会長を務めている人で、私と同い年の魔法を使える数少ない人のうちの一人だった。

魔法会は、魔力と学力が高いものが選ばれるという仕組みで、今回の魔法会のメンバーは、9人。多いと思うけれど、この人たち全員、魔法が使える人たちだ。学力も容姿も申し分ない。

そんな人たちと、私は…友達になれた、と言っても良いのだろうか…。

まぁ、少し仲良くなった。普通に会話するくらいには。


そして、私はいつの間にか


魔法会の一員となっていた。


本当に、いつの間にかだ。


ある日の放課後。フランチェスカ殿下に連れられて、魔法会室へ向かった。

部屋に入れば、パンパンッと弾ける音。

周りにはキラキラと何かが舞っていて、とても綺麗だったのを覚えている。


「ルチアちゃん!入会、」


「「「「「「おめでとう!」」」」」」


はい?


というのが第一の感想だ。

でも、徐々に言葉と状況を理解すると、とても嬉しくなった。

一緒にいて良いのだと、そう言われたような気がしたから。



おまじないしか、取り柄がなかった。

そんな私を、必要と、そう言ってくれる人たちがいる。


ならば


その人たちのために、頑張ろうではないか。


そう思うのは




いけないこと?




______

____

__




ガンッ…ガンッ…


暗い地下室。差し込む光は小窓からのもののみ。

そんな空間に、鈍い金属音がこだまする。


「…やめてぇ………おねがい…」


少女と思わしきか細い声が、紡がれる。


少女の名の通りの自慢の金髪は、今では土汚れにくすみ、汚くなっている。

人形のように整ったその容姿も、大きな瞳も、その白い肌も、以前の面影はない。


少女___ルチアは、両腕で頭を守るようにしながら耳をできるだけ塞ぎ、唇を噛み、声を押し殺す。瞳は恐怖に震え、涙が絶え間なく流れていた。

その唇からは血が滲んでいる。


よく見れば、両腕には枝箒で叩かれたかのような赤い傷跡があり、ところどころ青紫に変色している。



ルチアの声を無視し、その者は延々とルチアを殴り続けた。



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