第24話 非国民制裁砲と巫女兵

 眼を開けた時、木の年輪が見えた。焦点がゆっくりと定まる中、それは天井板であると気づいた。

 登は自分が布団の中に寝ていたことに気づいた。薄暗い中だが、ふすまに青々とした松の濃絵だみえがある。欄間らんまにも立波とつるかしりがされている。

 そして部屋のとこに、祭壇さいだんと鏡が置かれていた。そして、信じられないことに、鏡そのものが青白い光を発している。

 登は、一瞬ぎょっとした。そして、恐る恐るそれへと近づいた。光に時折、赤、青の色が混じる。少しして、その光が像を結んでいることに気づいた。一種のスクリーンのようだ。そう思うと、流れている映像を見極めたいと思った。

 映像は、原発の制御室のようなところを映していた。背中に「国家保安省こっかほあんしょう」と書かれた作業服を着た男たちがいる。一様に、ヘッドセットを装着し、コンソールのスイッチやキーボードを操作している。


「“非国民制裁砲ひこくみんせいさいほう”、発射準備」


 中央の指揮台にいる背広の男が、そう言って指揮を執った。作業員たちが、よく訓練されたオーケストラのように一斉に動き出した。


「中央オペより射撃手。目標番号ナンバー24446、座標023456、発射角度135度、電磁波出力120%に設定」

「——射撃手より中央オペ。目標番号ナンバー24446を確認。座標023456、発射角度135度、電磁波出力120%、諸元しょげん入力完了。電磁波出力、現在70%……75%……120%に到達。発射準備よし!」

ちーかたはじめー!」

「——発射!」

 

 震動と轟音ごうおんが、かすかに中央制御室に走った。少しして、観測手の報告が入った。

「目標の脳髄のうずいの破壊を確認。現在、“収容班”が遺体を回収し、臓器摘出作業にかかります」

 指揮台の男が、答えた。

「そうか。人体の“再利用”は迅速じんそくに」

「心得ております」

初瀬はせ国家保安大臣」

 作業員が、指揮台の男に作業表を手渡した。

「次の“非国民制裁”は1730《ヒトナナサンマル》を予定。目標、吾妻景子、八島豪太などです」

「分かった」

 その顔に映像はクローズアップされていく。指揮台にいた男は、だいぶ背中は曲がっていたが、登だった。


「な、なんだ。これは?」

 登は、あわてて部屋を飛び出した。障子を開けて出た先には、檜張ひのきばりの廊下が50メートルほど伸びている。どこかは分からないが、ぜいらした和風建築であることは間違いない。

 廊下を歩いて行こうとした時、「御目覚めになりましたか?」という聞きなれた声がした。巫女装束みこしょうぞくになった吉村美沙よしむらみさが平伏していた。

「ここは、留加るかなのか?」

「ええ。留加の中枢・社城やしろじょうです。ここは城の本丸御殿ほんまるごてんです」

「やしろ?」

「ここには留加大社るかたいしゃやしろがあります。それにちなんで、この城も社城と呼ばれるようになりました。また、この城の主である邦城家くにしろけは代々、大祝おおほうりとして、留加地方を治めてきました。そして、留加人も留加大社を精神的な支柱としてきました。私は、巫女兵みこへいとして、ここで働いています」

「みこへい?」

「留加大社、そして異世界に通じる“あけもん”をお守りする護衛兵です。留加大社では巫女みこつわものとして、大社をお守りする使命を有しているのです」

 巫女の緋袴ひばかまの腰元にホルスターが付いていた。それが異形であった。廊下を巫女兵が優雅な足取りで過ぎてゆく。そのうち1人が音もなく近寄ると、吉村に耳打ちした。

 吉村は一礼して、巫女を返した。

 そして登の方に体ごと向き直った。

小礼これい様が、お会いになるとのことです。ついてきてください」

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