第20話 景子(終)”親父”の誇り

 週末に、真之さねゆきの葬儀が行われた。

首都防衛失敗の責任を問われた真之は、7月20日付で統合幕僚長を解任され、東北方面補給処長へ降格された。そして3日後、補給支援の前線指揮中に消息を絶った。遺体は回収されなかったが、戦死と認定された。

 メディアは「現役陸将の初戦死認定」、「元幕僚長の戦死」、「国防隊史上、最高位の戦死認定者」と書きたて、葬儀場はマスコミで埋め尽くされた。

 中村総理大臣、三宅みやけ国防大臣も型通りの挨拶あいさつをして、すぐに帰って行った。

 景子と母も葬儀場に足を運んだ。他に着る服もないので、景子は学校の制服を着た。

 登と義母は、最前列で頭を伏せていた。母がそっと「お悔やみ申し上げます」とあいさつした。ともかく景子も、それを真似た。

 葬儀の間中、登は手元をじっと見つめていた。空のひつぎをのせた霊柩車が出て行った後、マスコミは登の前に殺到した。

「お父様のお話について聞かせてください」

「お父様の志をどう受け継ぐつもりなのですか」

 口々にわめいている。

 みにくい姿、と景子は思った。

「父の無念を無駄にしないようにします」

 それだけを答えて、登は再び葬儀場に戻った。

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

 その声からは、感情がそぎ落とされている。

「何をずっと見ていたの?」

「親父の形見だ」

手のひらに、小指ほどの小さな徽章きしょうがあった。赤と白の布製の徽章。制服の胸に装着するものだ。

「最後に会った時にもらった。親父は首都防衛の責任を問われて、幕僚長を解任された。解任されたその日に、初めて家に戻って来た。そして、これを俺に渡したんだ」

「これは何なの?」

「3・11のときに、親父は補給司令官として、被災地に大量の物資を送った。その功績が上に認められて、親父に贈られた勲章だ。親父はこれを誇りにしていた。俺にこれを渡してから、最前線に出たんだ」

 登は拳で目元をぬぐった。

「ドラマ、みたいな終わり方だよな」

 景子は、登の両手にそっと触れた。

 それしか出来なかった。

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