第19話 景子(8)戦死認定

 景子は家に帰った。

「景子、おかえり、どうしたの?」

「うん」

 生返事だけして、部屋に閉じこもった。

 スマホを取り出し、lineで登にメッセージを送った。

「この後、電話してもいい?」

 10分間ほどして、返信があった。

「いいよ」

 あえて、声が聞こえる電話を選んだ。

「登」

「なんだ?」

「あの子と話したい」

 しばらく、沈黙が落ちた。長い溜息の音と共に、苛立ったような声が放たれた。

「なんで、知ってる」

「本人に会った。おかしいと思ったから、後をつけた。登の家にいる人なんでしょ」

「そうだ。何のために話す?」

「聞きたいことがある」

 舌打ちの音がした。また、長い溜息。舌打ちがもう1回、鳴った。

「わかった。ちょっと待ってくれ」

 あの子が、やっと電話に出た。

何やってんだ、私。

いざ、出て見ると、途端に怖くなった。

「どうしましたか?」

「あなたが会いたい、と言った人は誰?」

「なんのことか、分かりません」

「とぼけないで。あなたが会いたい人は、登なんでしょ?」

「なんのことか、分かりません」

「最初は、お父さんの方かと思ったけど、それなら高校に来る必要はない。あなたが会いたかったのは登の方。何の目的のために登に会うの?」

 電話が、登に代わった。

「景子、どうなってるんだ?」

「私にも、分からない。でもその子に気をつけて」

 あんたは、狙われているかもしれない、と言おうとした時に、登の声がかぶさった。

「景子……」

「なに?」

「親父が、行方不明になった」

「え?」

「戦死認定、されたんだ」

 景子の顔から、血の気が引いた。


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