第18話  景子(7)私は、巫女

翌日の6時間目。

現代文の吉村美沙よしむらみさの授業中であった。


『青空は消えた。赤い鳥が羽ばたく』


 あの声が聞こえた。また、めまいが三半規管のうずを巻いている。体をまっすぐにすることが出来ない。指に変な力が入る。シャープペンシルの芯が、折れた。

「景子、大丈夫?」


『赤い鳥が羽ばたく時、巫女みこよみがえる』


 巫女は蘇る、とうたう声はハウリングして聞こえた。

 景子の手から、シャープペンシルがこぼれ落ちた。景子は、荒い息をしていた。

「吾妻さん、大丈夫?」

 吉村先生が、あわてて駆け寄って来た。


「仮校舎に移転して、まだ慣れてないせいよ。精神的につらかったことが多いし。しばらく休めばよくなるから」

保健の先生はとにかく、そう繰り返していた。

生理でもないのに、急に意識が遠のいた。

あの声のせいで。

 放課後になると、だいぶ落ち着いたので、自力で帰宅することにした。商店街まで行くと、あの子が捕まっていた。中年のおじさんが、口汚くののしっていた。首都が空爆されてから、ああいう「戦争警察」と呼ばれる自警団が、勝手なことをしている。

 1時間以上、怒鳴っているらしい。

 さすがに警察官が来て、自警団を引きはがした。

ぽつんと少女だけが残された。

「私は巫女」

 場を立ち去ろうとした時には、呼び止められていた。

 言葉に傷がついて、かすれていた。

少女の声が再び聞こえた。

「私は、巫女」

「さっきの、酷いことだと思った」

 そう思った時、すぐ別の声が耳の奥でした。

「彼には色があった。怯えの色。私には怯えが色で見える。幼い頃、みんな見えるものだと思っていた。でも、見えたのは私だけ」

「あなたは、誰?」

留加るかめぐみ」

「なぜ、帰らないの?」

「会わなければならない人がいるの」

「だれ?」

「秘密……」

「なんで、私に話しかけるの?」

「話しかけていない。ただ、私が虚空に放つ声を、あなたの耳がキャッチしてる。他の人には聞こえない私の周波数を、あなたはキャッチできる」

 私はコウモリか。景子は苦笑した。

「じゃあ、なんで私の名前を知ってるの?」

「私には見える。目の前の人の名前や記憶が。もし、見られたくないなら、隠れて。あなたの姿が見えなければ、私にも見えない。」

 景子は思わず、店舗の影に体を隠した。同時にスカートを手で押さえた。少しして、その行為の無意味さに気づいて、苦笑した。

「じゃあね」

「ちょっと、待って」

 “通信”は途切れた。

 少女はどこかへ行く。景子は少女の後をひたすら追いかけた。少女の歩みは不思議だった。ゆっくり行っているような動き、なのに距離が縮まらない。景子は汗だくになって走った。最終的に少女を、南ヶ原みなみがはらの高級住宅街で見失った。

 しかし、景子には少女がどの家にいるのか、見当がついた。

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