第2話 緊急速報

緊急速報きんきゅうそくほう 邦城くにしろ留加るか県知事が県内主要道路・鉄道・空港の封鎖ふうさを宣言。政府関係者の無期限退去を求める」


 不倫騒動を叩いていたスタジオから、映像が報道センターに切り替わった。堅物かたぶつを絵にいたような中年の女性キャスターが、原稿げんこうを読み上げた。


「ここで番組を変更してニュースをお伝えいたします。先ほど、邦城雄一郎くにしろゆういちろう留加県知事が緊急会見を開き、県に通じる主要道路・空港・鉄道の封鎖を宣言。これにより留加トンネルが上下線とも通行止めとなりました。また留加空港の封鎖に伴い、国内線は全便欠航となっております。JRによりますと、在来線・新幹線も先程から運転見合わせとなっています。

 これにより本州と留加県を結ぶ交通は、すべて遮断しゃだんされた状態です。邦城知事は、会見で、日本政府が推進している国民純化政策こくみんじゅんかせいさくを厳しく批判し、大和人やまとじんとは異なる、古い伝統を持つ留加人るかじんおとしめる政策には賛成できないことを表明しました。続報が入り次第、お伝えいたします」


 報道センターでは、何やらスタッフがさけんでいる。そして、情報を書いたメモが、スタッフやディレクターの間で、すばやく回覧かいらんされていく。

 そうした光景こうけいを見ているうちに、”事の重大性”というものが、団地の小さな部屋にまでみこんできた。

 部屋は、静まり返った。

 そのときのぼるのスマホに着信があった。その音に、心なしか、みんながぎょっとした。通知を見ると、「親父アイツ」からだった。

「誰から?」と景子けいこが聞いた。

親父おやじだ」ぶっきらぼうに答えた。

マジかよ、と登は思って、しかたなく電話に出た。

「登か。今どこにいる?」

「……どこにいたっていいだろ」

「いいか、よく聞け。今すぐ、家に帰れ。いいな。今日から、たぶん私は、ほとんど家に帰れない。義母かあさんとうまくやってくれ。じゃあ」

「オイ」

 一方的に、電話は切れた。

 おばさんが、テレビのボリュームを上げたが、続報は入ってこない。NHK、他の民放にもチャンネルを合わせたが、それらしいものはない。

「どういうことなの?」

「さあ」と景子がとりあえず、そう答えた。

 登はラーメンのスープを飲み干すと、キッチンシンクにどんぶりを置いた。

「悪い。親父おやじが、今すぐ家に戻れってさ。どんぶり、洗っといてくれ」

「お父さん?」

「ああ。心配性しんぱいしょうなんだよ」

 景子が言った。

「ここにいればいいじゃない。お義母かあさんだって、さすがに分かってくれるよ」

 そういう家じゃねえんだよ、という言葉を、なんとか登は飲み込んだ。

「とにかく帰る」そう言い捨てると、登は靴を履いた。

「じゃあ、ぼくも帰ります。おばさん、お邪魔じゃましました」

 豪太もそう言って、通学バッグを手に取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る