1章〜爆誕〜

第3話 爆誕

目を開けると、吸い込まれそうな程の青さに心を奪われた。人生に於いて、初めて見る程に美しい空だった。無意識に頭を動かすと、飛び込んで来た日差しの眩しさに思わず手を翳してしまう。


「・・・え?」


事態が飲み込めず、思わず声を上げる。だが、何度見ても変化はない。本来ならば見えるのは手の甲。いや、見えているモノは手の甲なのだろう。だが、どう見てもおかしい。変だ。だって・・・黒いんだもの。


もっと変な事もある。5本あるはずの指だ。それが無い。本数の問題じゃない。1本も無いのだ。慌てて上半身を起こし、自分の体を確かめる。


「は?え?手足が黒い・・・体は白・・・な、何じゃこりゃぁぁぁ!」


激しく動転し、大声で叫ぶ。人生で初めて絶叫した。無論、人間だった時も含めて。不用心と言われればその通りだが、そんな事を考えられる程のゆとりは無い。たっぷり数分間は絶望し、落ち着きを取り戻して気付く。


広い広い草原のど真ん中。ポツンと1人、置かれてる。


「・・・笹藪じゃね〜のかよ!」


思わずツッコんだが、絶対そうじゃない。まずは順番に行こう。


「・・・パンダかよ!」


いや、なんか違う。冷静に考えよう。色々とおかしい。


「草原に ポツンと1人 置かれてる。・・・ここで一句、じゃねぇからな!?」



大分叫んで落ち着いた。って言うか達観した。人生、諦めが肝心である。だからこそ、まずは状況を整理しよう。本来ならば周囲の安全を確認し、それから自分の状態を分析するのが正しい。でもそんなに冷静ではいられない。だから自分の確認をする。


「手も足も指がねぇ。ただ配色を見るに、これはパンダ。痛みは無いし傷痕も無い。つまり、最初から指は無かったと考えるべきだ。ん?良く見たら腕の裏側に縫い目が・・・縫い目?ぬいぐるみ?」



とりあえず、何が起こっているのかはわかった。正確には、全くわからないという事がわかった。水も無ければ鏡も無い。首から下は見えるが、それも体の前面のみ。これ以上は、幾ら眺めてもわからない。だからこそ、次に確認するのは周囲の状況。そう思って辺りを見回す。


「・・・紙?」


すぐ横に落ちていた1枚の紙切れが目に止まり、オレは警戒しながら覗き込む。そこには日本語で何かが書かれていた。




―――鷹村 陸へ―――



大した説明もせず送り出し、本当に申し訳ありませんでした。簡単ではありますが、改めて説明します。まず、貴方が居る場所はウェアリンドという世界。その極東に位置するガルヴァリオ王国の東端にある、大きな無人島となります。お約束の『東の島国からやって来た』というのに都合が良いはずです。


ウェアリンドに関してですが、こちらもお約束の魔法が存在します。当然魔物や魔獣と呼ばれる危険な生物も。さらには人間が生きるには過酷という事もあり、スキルと呼ばれる特殊な技能も存在しております。折角転生したのですから、努力し工夫を重ねて生き延びて下さい。


それと、私から貴方へ幾つか贈り物を用意しておきました。『ステータスオープン』と唱えてみて下さい。そうすれば色々と理解して頂けるでしょう。



最後になりますが、諸事情により貴方の姿を変えさせて頂きました。貴方が救った女性の持ち物を参考にしましたので、本来ウェアリンドには生息していない生物となります。その姿で人間と接触するのは危険ですので、暫くはレベルアップに励む事を推奨致します。


もしも貴方が人間の姿を望むのであれば、真実の愛を探し出して下さい。本当の愛を見つけた時、貴方は人間の姿を取り戻せるでしょう。














                     ―――アマルより―――





とりあえず最後まで目を通した。わかった事は多いが、わからないままの事も多い。多少はゲームの経験もあるから、魔法やスキルは何となく理解出来る。ただ、問題はソコじゃない。


「・・・お約束とかいらねぇからな!?しかも無人島ってなんだよ!」


女神の気遣いが盛大に空回りしてる。しかも島なのに端が見えない。ココは結構な大きさっぽいな。


「空欄が多いんだから、もっと説明して欲しかった。そんな事より・・・誰かに読まれる心配は無さそうだけど、一応処分しといた方がいいだろうな。」


無人島というお墨付きは頂いたが、来訪者がいないとも限らない。風で飛ばされる前に処分しておこう。


「とは言うものの・・・指が無いから千切る事も出来ん。大きめの石でも探してグシャグシャにするか。」


複雑な作業は不可能だが、両手で物を挟む事は出来るだろう。そう考えて少し遠くを見回すと、少し大きめの石を見つけた。取りに行こうと立ち上がり、そちらへ向かって右足で1歩を踏み出す。


――ピッ!


「ん?」


甲高い音が聞こえたが気のせいだろう。今度は左足で2歩目を踏み出す。


――ピッ!


「何だ!?」


やはり気のせいじゃない。足の動きに合わせて、何かが鳴っている。誰かいるのか!?そう思ってキョロキョロと周囲を伺うが、近くに音を立てるような存在は確認出来ない。


「まさか・・・」


嫌な予感がして、オレは再び足を動かす。今度は連続して。


――ピッピッピッピッピッ!


「わぁ、カワイイ!って、子供かっ!!」


両手を地面に突き、ガックリと項垂れる。この時、思い掛けない発見をする。


「ひ、膝がある!?」


驚愕の事実。今、オレは膝を突いている。これが何を意味するのかというと、足にはそれなりの長さがあるのだ。考えてみれば手もそう。この事実に、今日何度目かの戦慄を覚えた。


「体長は何センチ!?いや、そもそも何等身だ!?」


由々しき事態である。


「2等身ならベスト。百歩譲って実物比。だが実寸大はマズイ!最悪なのは・・・人間みたいなパンダ!!」



どう見ても人間みたいなパンダではないのだが、そこまで冷静な分析が出来るような精神状態ではなかった。今まで並大抵の事では動じなかった分、トラブルには弱かったのである。

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異世界パンダ 〜愛っていくらでしょう?〜 橘 霞月 @timokee

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