第2話 プロローグ2

気が付くとソコは真っ白な部屋。殺風景な部屋。見渡しても全周ぐるりと真っ白な壁。窓は無く、天井に照明も見当たらない。だと言うのに、明るいのは何故だろう。明るいと言うよりも、眩しい程。


視線を落とすと、正面に置かれた豪華な執務机が目に止まる。そこには出会った事も無いような美女の姿。美しい・・・だがそれ以外の感想は無い。


「・・・誰だ?」

「私の名はアマル。自分が置かれた状況が理解出来ますか、鷹村陸?」

「状況?・・・アマルさんは客、ではなさそうだな。」


散々美人の相手をさせられて来たが、客ならば事前に律子さんから連絡がある。それが無いって事は客じゃない。


「貴方は死んだのですよ?」

「死んだ?・・・オレが?」

「えぇ。通勤途中に、車に跳ねられそうになった女子高生を庇って。」

「女子高生・・・あの子か!無事だったのか!?」

「えぇ、無事です。」


良かった・・・本当に良かった!そう思ってガッツポーズをとる。だが、そんなオレを見つめるアマルさんの視線に気が付いた。


「えっと・・・何か?」

「死んだのですよ?」

「え?・・・あ、あぁ!オレか?でも彼女は助かったんだろ?」

「はい。」

「なら良かった。無駄死にじゃない。オレが生きてる意味はあった。」

「・・・・・。」


喜びを噛み締めるオレに対し、眉を顰めるアマルさん。何だろうと思ったが、ちょっと考えて理解した。誰かを助けたとは言え、オレが死んだのは事実。人が亡くなってる以上、喜びを表に出すのは不謹慎だろう。


「わ、悪かった!不謹慎だったよな!?」

「・・・ふふっ。」

「アマル、さん?」

「資料にあった通り、悪人ではなさそうですね。」

「悪人?・・・資料?」


人物評価・・・オレの素行調査か?まさか興信所!?だとするとヤバイ!律子さんに迷惑が掛かる!!


「女性ならともかく、男性が体1つであそこまで稼ぐとは・・・。」

「何が狙いだ!?」

「狙いと言うか、面接のようなものですかね?」


面接だと?・・・ダメだ、この女の考えが読めない。こんなのは初めてだ。


「あぁ、私の思考を読むのは無理ですよ?貴方がこれまで出会った女性と一緒にしないで下さい。これでも私、女神ですから。」

「なっ!?・・・女神!?」

「そうです。そして貴方の後ろに居るのが天使のマリエル。私の秘書です。」


そう言われ、オレは勢い良く振り返る。するとそこには、背中に大きな翼の生えた美女が浮かんでいた。


「信じて頂けましたか?」

「あ、あぁ・・・。」


女神アマルの問い掛けに、振り返った時以上の速度で向き直る。『はい、そうですか』とはいかないが、信じるしかないのだろう。だって、背後の天使は宙に浮いているのだから。


「さて、貴方の反応を見ているのは楽しいのですが、私も暇ではありません。話を進めても構いませんか?」

「・・・どうぞ。」

「ありがとうございます。では早速ですが、貴方には地球と異なる世界に向かって頂きます。」

「は?・・・何で?」

「理由は、貴方が良い行いをしたからです。」

「人助け?」

「はい。貴方に助けられた女性ですが、貴方への贖罪から死ぬまでに多くの命を救います。」

「物語に良くある、未来が変わったってヤツ?」

「いえ、変わったと言いますか、変わらないと言いますか・・・。」


ハッキリしない物言いに、オレは黙って首を傾げた。


「実は、未来はそこまで細かく決められていないのです。」

「細かくない?大雑把って事か?」

「えぇ。つまり、要所要所を押さえるイメージですね。そうしないと我々の手に負えないのです。例えるならば、日記ではなく秒単位の記録ですね。」

「それは無理だな。」


特別な超能力でも無い限り、1人1人の生涯を決めてなどいられない。数え切れない程の出会いや別離を考えると、1人の一生を決めるだけでも数万人の科学者が必要だろう。



「ですから今回の場合で言うと、彼女が助かる事は決まっていました。ですが、誰が犠牲となるかは決まっていなかったのです。」

「じゃあ・・・オレが死んだのは偶々?」

「言葉は悪いですが、そうなります。」

「となると、生まれ変わるのはオレじゃなかったのかもしれないのか・・・。」

「いいえ、そうではないのです。」

「?」


ダメだ、やっぱこの女神の考えが読めない。下手に考えずに、言われた事を受け入れるだけにしよう。


「今回の件、我々にとっては完全に想定外でした。貴方が身代わりとなる事の影響がこれ程とは、思ってもみなかったのです。貴方は・・・大変女性受けする容姿をしていらっしゃいますよね?」

「まぁ・・・多分?」

「今回救った女性ですが、貴方のような優れた容姿の男性に救われた事で・・・張り切ってしまうのです。」

「えっと・・・つまり?」

「ぶっちゃけると、元々泣ける話だったのが神話並に格上げされました。」

「はぁ!?」


思わず声を上げながら、わかりやすく説明してくれたマリエルさんへと振り向いた。そして彼女のブッコミは続く。


「罪の意識よりも絶世の美男子に救われた事で、テンションがおかしな方向へ振り切ったのです。」

「マジで!?」

「マジで。」

「・・・・・。」


何と答えたら良いのかわからず沈黙していると、アマルさんが説明を続けてくれた。


「本来ならば危機的状況を迎えるはずだった地球も、彼女に救われる者達の手によって事なきを得ます。お陰で我々は大忙しです。」

「なんか・・・すんません?」

「いえいえ、大変ありがたい事なのですよ?我々は外界に干渉出来ませんから、ずっと頭を悩ませていましたし。と言う訳で、貴方がどういう人物なのかを確かめるべく、此処にお連れしました。」

「だから面接・・・」


歴史の要人偉人なら把握してるが、エキストラまでは知らんって事か。なるほどな。


「貴方の性格を見て、どの世界にお連れするかを判断しようというのが今回の目的です。」

「どの世界?」

「はい。生命が存在する世界は幾つもあります。お会いするまでは再び地球で、と考えていたのですが・・・。」

「ですが?」

「貴方が再び地球で、というのは勘弁して欲しいとの要望も多く・・・」

「代わりにぶっちゃけると、また騒動になるのは目に見えてるからヤメてくれと。」

「・・・・・。」


トラブルメーカーみたいに言われるのが不本意で、ゆっくりと遠慮の無いマリエルさんへ首を向ける。だが、またしてもブッコミは続く。


「貴方の魅力って、ある種の突然変異なんです。ゲームでもないのにチートなんですよ!」

「おい!?」

「運が悪いと争いの火種になりかねないので、干渉出来ない地球はやめろというのが私達の陳情です。」

「・・・・・。」

「そう言う訳でして、貴方には地球とは異なる世界へと向かって頂きます。」

「どんな世界なんだ?」

「所謂、剣と魔法の世界というモノですね。魔物が居て危険ではありますが、貴方には私からカゴを授けます。」

「女神の加護?」

「ほ、他にも色々とお渡ししますので!・・・如何ですか?」

「まぁ、簡単に死んだりしないのなら・・・。」

「良かったです!では、早速準備致しますね。それでは頑張って下さい!!」


アマルさんの言葉と共に、オレの意識は途切れた。改めて思い出すと、この時きちんと確認すべきだったのだろう。何故アマルさんが強引に進めたのかを。そしたらきっと、もう少しマシな生活が送れたはずなんだ。今更ではあるが。






「良かったのですか?」

「・・・何がです?」

「説明しなくて。」

「しますよ?・・・アチラの世界で。」

「彼に嫌われても知りませんからね?」

「ちょ、アナタも同罪ですからね!?」

「はぁ!?説明すんのがアンタの役目でしょうが!」

「フォローするのがアナタの役目でしょ!?」

「嫌われたくないからって何時も何時も―――」

「仕方ないじゃない!信仰が無くなったら―――」


その後、責任の擦り付け合いにより2人揃って叱られたとかなんとか。それはまぁ、神のみぞ知る。





一波乱あり気な『鷹村 陸』の異世界転生。この時の面談では一切触れられなかったのだが、彼を語る上で最も重要な要素があった。それは彼が【女性を愛せない】という事。女性を抱くという行為は、彼にとっての仕事でしかない。


あらゆる国を滅ぼし兼ねない彼の魅力は、放置するにはあまりにも危険だった。亜人を含めた人間、もしくは魔物。どのような生物に生まれようと、与える影響に変わりはない。ならば石などの物質かと問われれば、恐らくそれも違うだろう。美し過ぎる宝石や美術品もまた、人を狂わせるのだから。



陸と相対しながら、女神は最良と思える決断を下した。ベストな選択は無い。ならばベターな選択をしよう、と。その結果、彼は異世界の空に向かって何度も叫ぶ。「女神のクソ!死ね!!」と。

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