異世界パンダ 〜愛っていくらでしょう?〜

橘 霞月

序章

第1話 プロローグ1

【まえがき】


どうしてもおバカな物語が書きたかったので、超不定期で連載します。

不本意ながらもプロローグだけは、ちょっぴりシリアス。


魔王とか邪神とか、そういう強敵は出て来ない予定。

どうしてもネタに困ったら・・・無理やり完結します(笑)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



――コンコン


「入りなさい。」

「失礼します!」


――カチャ。バタン。


ドアを開けて入室して来たのは、背中に白い翼の生えた女性。そのまま部屋の主へ歩み寄り、胸に抱えていた書類を机の上へと差し出す。


「問題が発生しました。」

「問題?」


不穏な発言に女性を一瞥するも、すぐに書類へと視線を移す。主が黙々と書類を読み進めるのを、女性は直立不動で待ち続けた。



数分後。事態を飲み込んだ主は顔を上げると、座っていた椅子の背もたれに寄りかかって天井を仰ぐ。


「・・・確かに問題ね。」

「はい、問題ですね。」

「「・・・・・。」」

「ちょっと!一体どうしろって言うのよ!!」

「知りませんよ!それを決めるのがアナタの仕事でしょうが!!」


突如として始まった謎の応酬。だが責任を擦り付けようというモノではない。傍から見ても、どちらに決定権があるのかは一目瞭然。立派な執務机で業務に勤しむ、主と思しき存在。この場合は上司だろうか。


年齢は10代後半から20代前半。純白のドレスに身を包んだ女性は、非の打ちようがない容姿をしている。まるで女神と見紛う美貌の彼女。そう、正しく女神であった。さらには対する部下と思しき女性もまた、予想通りの天使である。



一体何で揉めているのかと言うと・・・時は遡る。






―――平日の朝。通勤や通学する人波に混じり、フラフラと歩くスーツ姿の青年があった。


「あ〜、だりぃ。でも今回でやっと終わった。もう仕事辞めて、知り合いのいない国にでも行くかな・・・。」


空を見上げながら呟く彼の名は『鷹村 陸』。超一流企業に務める青年である。何やら訳ありの両親のもとに生まれるも、その両親も幼い頃に亡くしていた。頼れる親戚もなく、天涯孤独の彼だったが・・・有名大学を卒業して現在の会社に就職。今に至る。


そんな彼だが、施設で生活していたのは小学校6年の夏休みまで。誰もが公立の中学に通うと思っていたのだが、なんと有名私立中学へと進む。転機が訪れたのは小学校6年生の夏休み。日頃から友達付き合いの少なかった彼が、1人夜の歓楽街をブラブラと歩いていた時の事。とある女性に声を掛けられたのがキッカケとなる。



「ちょっとキミ!」

「・・・・・。」

「待ちなさい!」


また補導されてはマズイと思い無視を決め込んだのだが、後ろから肩を掴まれてしまう。多分逃げられないなと観念しながら振り向くと、教師や警察官には見えない派手な服装の女性と目が合った。


「・・・誰?」

「誰って・・・(私の事を知らない?もしそうなら好都合ね) ちょっと私に付き合いなさい!」

「はぁ!?何でだよ!」

「いいから!バイト代なら弾むわよ!!」

「バイト代?・・・って、お金くれるのか!?わかった!」


常識などほとんど持ち合わせていなかった彼は、金が貰えると聞き何の疑いもなく飛びつく。女性に言われるがまま、連れて行かれたのはホテルの最上階。教室数個分はある、豪華絢爛な1室。


何故かシャワーを浴びるよう言われ、その後は彼女主導でベッド・イン。彼女から色々と手解きを受けながら、彼女が満足するまで続けられた。


「・・・とても初めてとは思えないわ。掘り出し物よ!何より若いし!!」

「掘り出し物?」

「こっちの話よ。それよりも、キミは今幾つなの?」

「幾つ・・・って年の事?12歳!」

「じゅ・・・はぁ!?未成年・・・ってか児童じゃない!!」

「自動?」


慌てて起き上がる女性に、彼は首を傾げる。友達付き合いの少ない彼に、その手の知識は無い。彼女が何に驚いているのか、全く以てわからなかったのだ。


「スキャンダルどころか大スクープよ・・・。」

「お・・・お姉さん、さっきから何言ってるの?」


彼にとってはオバサンと呼んでも過言では無いのだが、それを口にしてはいけないような気がして思い留まる。そんな事よりも、彼女が何を言っているのかが理解出来ないのだ。そんな彼女も、彼の様子に光明を見出す。


「キミ・・・そう言えば名前も聞いてなかったわね。私の名前は『伊藤 遥』。一応女優よ。」

「女優!?すっげぇ!」


女優と聞き、キラキラした眼差しに変わる。それは同時に、遥が抱き続けた疑念が確信へと切り替わった瞬間でもあった。目の前に居る少年は、本当に自分の事を知らないのだと。


「それで、キミの名前は?」

「オレは陸!『奥山 陸』って言うんだ!!××小学校の6年3組!」

「・・・はぁ。本当に小学生なのね・・・。」


陸の様子に、遥は頭を抱える。だがすぐに頭を切り替える。それもそうだろう。彼女に残された時間は少ない。遅くとも朝までに何とかしなければ、彼女の人生は終わってしまう。まぁ児童を軟禁する以上、朝を迎えた時点で終わるのだが。



そもそも、何故このような事態に陥ってしまったのかと言うと――


それは陸の容姿に問題があった。僅か12歳にして、既に身長は180センチ超え。髪はブロンドで、超がつく程の美形。間違いなく欧米人とのハーフ。施設暮らしと見た目も相まって、小学校では完全に浮いていたのだ。




遥はたっぷりと時間を掛け、陸の情報を洗いざらい聞き出す。そんな陸も、日付が変わる頃には眠りについた。小学生に夜ふかしは辛かったのだろう。遥も全てを忘れて一緒に眠りたかったのだが、当然そうもいかない。カバンから手帳を取り出し、これまでの人生で最も頭脳を働かせる。


「口止めをして『はい、さようなら』、これは最も愚策ね。週刊誌の記者の耳にでも入ったら・・・。私が取れる選択肢と言ったら、この子を抱き込む以外にないもの。何より、手放すにはあまりにも惜しいわ。けど私1人だと隠しきれないのも事実。手元に置いたら関係者には絶対気付かれるわね。だったら・・・」



施設で暮らす子供を養子にする。それは良くある話だろう。しかし未婚の女優がそれをするには無理がある。自らネタを提供する必要は無い。ならばどうするのか。それは・・・


「あ、もしもし―――」


自分が引き取れないのなら、信用出来る者に引き取ってもらう。そう考えて、深夜にも関わらず電話を掛けた。電話の相手は自身の所属する芸能事務所の女社長。遥のただならぬ様子に、滞在中のホテルへ急行した。


そんな電話から僅か30分後――



「・・・という訳なの。」

「全く・・・少し考えさせて頂戴。」

「えぇ。」

「「・・・・・。」」


長い長い沈黙の末、女社長が口を開く。


「いいわ。私が引き取ってあげる。」

「本当!?」

「えぇ。ただし条件があるわ。」

「当然でしょうね。・・・何?」


引き取られる側だけでなく、引き取る側の人生までも左右する。遥も充分に理解していた為、不満は無かった。たとえあったとしても、陸を確保出来るのなら霞んでしまうだろう。


「身元は引き受けるけど、金銭的な援助はしない。」

「そんな!?・・・いえ、いいわ!」


なんて冷たい言い草なのだろうと、遥は当然声を上げる。だが、自分がどれ程無茶な頼みをしているのかを考えれば、彼女の提案を受け入れるほか無い。それどころか、名前を借りられれば充分なのだ。金銭面なら自分の稼ぎだけで事足りる。だが他人というのは、自分の思い通りに動くものではない。


「それから、この子を遥が独占するのも禁止。」

「え?・・・え!?」


あまりにも想定外だったのか、遥が理解するまでに数秒を要した。しかもその理由は意外なもの。


「この子、本来なら今すぐモデルか役者にしてる所よ?だけど、アナタのお陰でそれも無理!」

「それは・・・」

「大体、ウチのスカウトは何をやってるのかしら!」

「・・・・・。」


何の事を言っているのかは遥にもわかる。陸が芸能界デビューを果たせば、確実に売れる。有名女優の遥をして、これ程の魅力に溢れている男性は見た事が無かった。だからこそ声を掛けた。本来であれば、天地がひっくり返っても有り得ない行為である。


そんな陸が有名になれば、彼の出自は暴かれる。デビューのキッカケをでっち上げようと、マスコミは嗅ぎ付けるだろう。相手は百戦錬磨なのだから。


遥が手を出した事で、陸には傷が付いた。隠し切れない大きな傷が。遥にも傷は付いたのだが、此方はこれからの対処によって隠し通す事が出来る。陸が将来爆発する核爆弾なら、遥は見つからないだろう不発弾。どちらを選ぶかは言うまでもない。



因みにだが、スカウト部隊が見付けられなかったのは当たり前。スカウトしに公園へは行かない。そんな場所で長時間キョロキョロすれば、完全な不審者である。話を戻そう。



「それは後ね。それよりも、この子との関係を続けたいならもっと働きなさい!その金で彼を買うの!!」

「ちょっ!?」

「そしてこの子には、他の女優やモデルの相手もして貰うわ。」

「はぁぁぁ!?」

「それが無理なら他をあたって頂戴。」

「くっ・・・わかったわよ!」


折角自分が見つけたダイヤの原石。大切に磨き上げて愛でようと思っていたのに、あろうことか不特定多数へ貸し出そうと言うのである。声を荒げるのも無理はなかった。だがしかし、今の遥に拒む事は許されない。



煌びやかなイメージとは対象的に、愛憎渦巻く芸能界。不倫や麻薬と異なり、単純な肉体関係は表沙汰にならない。環境さえ整えば、証拠は一切残らないのである。


遥の場合で言うのなら、自身が所属する芸能事務所の社長宅を訪問。もしも遅くなったら、そのまま宿泊。同じ屋根の下には義理の息子も居るのだが、どう転んでも追求のしようがない。それは他の女優達にも言える事だった。



因みにこの女社長こと『鷹村 律子』は金儲けのプロ。優先すべきは情より金。座右の銘は『地獄の沙汰も金次第』、人生は金が全てと本気で考えていた。


そして、陸が生きるには金が必要となる。するとどうなるか。当然導き出される答えは――


『働かざる者、食うべからず』



陸は大手を振って働けないのだから、裏で稼ぐしかない。だが遥が独占すれば、彼女は陸に溺れてしまう。最悪の場合、そのまま結婚。そして引退である。律子は稼ぎ頭を失い、遥は隠れて余生を過ごす事となる。それではお互い困るのだ。


そして律子には、他にも狙いがある。男遊びが過ぎる大女優。今まで扱いに手を焼いていた遥でコレだ。他の女ならば、その効果は計り知れない。陸を求めて、これまで以上に努力する。成果が出れば陸との関係がもてる。結果、女としての魅力が増す。何よりの利点は、バレるリスクが無い事。とにかく良い事ずくめなのだ。・・・犯罪ではあるが。




こうして本人の預かり知らぬ所で魔境に引きずり込まれる事となった、奥山 改め 鷹村 陸。彼がまともに成長するはずもなく、歪んだ大人になるのは明らかであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る