731.キノコたくさん

 ゲートを通り、俺たちは第3層に辿り着いた。キノコの庭園はじめじめとしてさらに暗い。空は薄曇りであり、石造りの壁と廊下が広がっている。天井は塞がれてはいないが。


 俺の着ぐるみの中にいるディアがもぞもぞと外を見ている。


「ぴよ。なんだかお家のなかみたいぴよ」

「わふー。陰気なんだぞ」

「ふむ……暗いし、気を付けないとな」

「たくさんキノコが生えてるぴよね」

「そーいうところなんだぞ」

「そーいうところぴよね」


 壁の下や廊下の隅にキノコがぼんやりと見えるな。まさにキノコの庭園の名前通りだ。

 ステラも油断なく周囲を見渡している。


「ここは好戦的なキノコの魔獣が数多くいます。さっさと通り過ぎるのに越したことはありません」

「ウゴ、毒キノコもあるんだよね?」

「ええ、ここで採れるキノコには注意が……」


 もぐもぐ。

 コカトリスたちが壁の小さなキノコをすでにくちばしにくわえていた。

 傘の部分がリンゴのように真っ赤な、小さなキノコだ。


「ぴよぴよ……」(酸味が強め……)

「ぴよ」(香りは濃厚だけどこれは好みが分かれますな。個人的には傘の部分より柄のほうがよき)

「ぴよ! もう食べてるぴよよ!」

「だ、大丈夫です! ぴよちゃんたちなら!」


 レイアも目が泳ぎながら、補足する。


「そうです! ぴよちゃんは古今東西、あらゆる毒に耐性がありますから!」

「……ぴよ。じゃあ、あのキノコはとうさまが食べても大丈夫ぴよ?」

「それは比較的ヤバめですが……」


 レイアがあっさりと危険性を認める。ナナがお腹のポケットをごそごそとし、液体の入った小さなガラス瓶を取り出した。


「そのキノコを食べても、これをすぐ飲めばまぁまぁ大丈夫なはずだよ」

「……備えあれば憂いなしだな」

「ウゴ……」


 俺は間違ってもそんな危ないキノコは食べないが……。


「柄の部分だけなら、この青いキノコとセットで食べれば問題はないのですけどね……」


 ステラの手には壁からもぎとった真っ青な傘の小さなキノコがある。明らかにマズそうな色をしているな。


 俺はレイアをちらっと見た。レイアは悲しい目をしている。


「……それは何十年にも前に、マニュアルからなくなりました……」

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