732.進む先

「…………」


 ステラは言葉を失い、そっと背後でもぐもぐしてるコカトリスへ青いキノコを手渡した。


「ぴよ!」(いらないの!? じゃあ、もらうね!)


 しゅばっ、もぐもぐ……。


 コカトリスは青いキノコを躊躇なくくちばしへと放り込む。


「ぴよ……」(こっちは甘すぎぃ……)


 コカトリス評はやや微妙なようだ。


「毒キノコは味も微妙なんだぞ?」

「いや、そうとも限らないな。食べたときは良くても……という例もある」

「こわぴよ。気をつけるぴよ」

「ウゴ、外にあるものを食べちゃだめだよ……」


 我が家では拾い食いは禁止である。


「そうぴよ! 外で食べていいのは、とおさまの手から出てくるモノだけぴよ!」


 ……ま、まぁ、その通りなんだが。

 野菜や果物、根菜までなんでも出るからな。


 ステラがまだやや遠い目をしていた。


「ちょっと舌が痺れるくらいがいい感じでしたのに……」

「わっふふ。母上は刺激的な料理が好きだからしょうがないんだぞ」


 ナナがぴこぴこと羽を動かす。


「軽めの毒キノコも食べ続ければ、耐性ができるのかもね」

「ふむ……かもな。冒険者の知恵だろう」


 廃止されてしまったが。


 ということを話しつつ、俺たちは前に進む。

 先頭はレイアとステラだ。レイアが壁を指差し確認している。


「ええと、この壁の配置パターンからすると……今度はあちらでしょうか」

「そうですね。東に行って、北のパターンかと」


 この第3層は迷路めいたエリアである。とはいえ、全体はそこまで広くはないらしいが。

 第1層の半分以下の広さしかない。だが回り道が多く、それほど早く踏破はできない仕組みだ。


「ウゴ、知識がないと進めないね」

「知らないとずっと歩き回るはめになりそうだな……。難所と言われたのも、納得できる」

「わふ。図鑑だとここからハードルが高いって書いてあったんだぞ」


 ステラが回答する。


「ええ、そうですね。迷路のパターンを覚えておかないと非常に時間がかかります。あとは第3層から、こちらを襲ってくる魔物が現れますから――」


 と、そこでステラが立ち止まり、バットを構える。


「……どうやら言ったそばから、現れたようです」


 ぼよんぼよん揺れる人型サイズのキノコたちが、通路の向こう側から現れる。黄色の傘のせいか、警戒心を呼び起こされる見た目だな。


 だが、倒さなければ先に進めない。


「戦闘準備だ……!」

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