695.ザンザス観光事情

 それから1週間、ダンジョンへと潜る準備は着々と進んだ。不在の間、仕事が滞らないようにする段取りも終わりつつある。


 まぁ、普段より少し気合いを入れて事務仕事をこなす程度だが。


「ふぅ……」


 冒険者ギルドの執務室で肩を回す。今、執務室ではステラも作業をしている。彼女も熱心にやっているな……。


「ちょっとひと休みするか」

「ええ、そうですね」


 数日徹夜しても平気らしいステラに休みは不要かもだが。しかし適度に休むことは必要だ。


「コーヒーを入れましょうか。良い豆を仕入れてきましたので」

「ほう、コーヒーとは珍しいな。俺も手伝おう」

「いえ……お気持ちだけで。大丈夫です」


 ここらでは紅茶が多く、たまに麦茶も飲まれる。コーヒーは高級品であり、一般販売はあまりしていない。お得意さん向けの販売が大半なのだとか。


「ふむ……」


 手持ち無沙汰になった俺は、机の引き出しからザンザスの観光パンフレットを取り出した。


 ザンザスへ行くにあたり、実は密かに頭の痛い問題が発生していた。


「ザンザスの観光パンフレットですね。なんだか去年のモノよりカラフルな気がします」

「ああ、これはついこの間完成した最新版らしい。書かれている内容はそれほど変わってないそうだが、去年よりも紙や塗料にこだわったとか」


 俺が持っている観光パンフレットは一般向けではなく、貴族や大商人、学会、他の友好都市に向けた豪華版である。


 金銀とまでは行かないが、フルカラーの防水仕様であり薄めの図鑑と言える。これだけでもかなりの投資だろうな。


「……うーん」


 ザンザスの観光パンフレットはこれまでも読んできたが……。


・コカトリスの着ぐるみ、ふれあいショー


 常にふわもっこなコカトリスの着ぐるみがあなたをお出迎え☆


 高級ホテルやレストランにも出張可能、素晴らしいコカトリスワールドをまずは着ぐるみからご堪能ください!(注・大好評につき、今年の出張受付は終了いたしました)


 いや、着ぐるみなら自宅にあるんだよなぁ……。


・季節を超えた奇跡の野菜と果物


 今年のザンザスはグルメもすごい! 最高級の野菜と果物を独自ルートにて確保しました。熟練のシェフによる夢のグルメが広がっています☆


 これはどう考えてもヒールベリーの村からだよな……。


・ザンザスの英雄、ステラ展を大拡大中!!!


 豪華キャストによる古典オペラの上演を始め、新進気鋭の演出家による新作バレエも公演予定。その一部をご紹介!!!


「おお、汝こそはスティーブン?」


 各地に残るスティーブン伝説をステラ伝説と結びつけた伝奇的意欲作。英雄ステラが呪われた村々の秘密に迫る。コールモッド批評賞、アラファッド演劇祭銀賞受賞。


「折れた聖剣」


 英雄ステラが偽の聖剣を叩き折り、魔物の大群を蹴散らす爽快感抜群の古典的名作。フォルラ声楽賞を受賞したファル・イスタシアによる新解釈にもぜひ注目!!!


 うーん、これとか絶対ステラは見たがらないよな。というか、当人が目の前にいるんだが……。

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