696.ディアは望む
難しい顔をしている俺に、ステラが声をかけてくる。
「まぁ……野菜や果物については、ヒールベリーの村が一番です。でも他にも見どころはありますよ。アクセサリーや家具などはやはり、大都市だけあって充実してました」
「なるほどな、そうした工業や加工はこの村だとまだ始まったばかりだ」
俺の魔法なら植物由来のアクセサリーや家を量産できるが、それだと他の仕事ができなくなる。
ドリアードも家具についてはかなり無関心だしな……。なにせ寝床も植木鉢と高級土でいいのだから。
ナナも魔法具以外は作る気がない。レイアは……コカトリスやステラ関連以外の話を持ってきた記憶がないな。
一般的な家具は確かに盲点だろう。
「あとはやはりダンジョンですね。前に海の中のダンジョンに入りましたが、アレとはかなり違います」
「ほうほう……」
「広大でゆったりとして……もちろん魔物はいますが、なんて言うんでしょう。魔力で作られているのは確かなのですが、偽物や不自然なもののようには感じられないのです」
「わかる気はするな……」
海の中のダンジョンでは、非現実感がすごかった。風景も途中で変わってたし。
だがザンザスのダンジョンは1000年も安定して構造がほとんど変わっていない。
「きっといい経験になると思います」
「ああ、そうだな……」
◇
エルトの家、リビングにて。
マルコシアスとディア、ウッドが綿に寝転がりながらザンザスの観光パンフレットを眺めていた。
こちらは一般観光客向けの、モノクロで簡素なパンフレットである。
「ウゴ、本当に母さんの像がたくさんあるんだよ」
「ふぁー、すごいんだぞー」
「人気ぴよねー」
ディアはステラの歴史をまだよく知らない。ザンザスで人気なことだけがわかっていた。
ページをめくりながら、お互いにアレコレ言い合う。
「ぴよー。この特選グルメもよさそうぴよね!」
「わふー。季節外れの野菜を使ったコース料理だぞ?」
「ウゴ、デザートは新鮮なフルーツ……」
ウッドが何かに気づいて押し黙る。
「ぴよよ、きっとおいしいぴよね……!」
「わふ……」
マルコシアスも目をぱちくりさせ、ウッドと視線を交わす。ふたりは気づいた。
この特選コース料理……もしかして食材の産地はヒールベリーの村なのでは?
マルコシアスもウッドものんびりしているが、頭が悪いわけでは決してない。賢かった。
「マルちゃん、おにいちゃん、どう思うぴよ? あたし的には期待大ぴよ!」
「ウ……ウゴ! そうだね! きっとおいしいよ!」
「だぞ! 素晴らしい料理に違いないんだぞ!」
さすがに行く前から希望を砕くことはできず、ふたりはディアに話を合わせた。
マルコシアスがぴっと前脚をあげる。
「たぶん……食べ慣れた味がするかもだけど、絶対においしいんだぞ!」
「ぴよ! いいぴよねー!」
ディアが瞳をきらきらさせる。
「あとはこの……博物館ってのにも行ってみたいぴよ!」
ディアは意気込んだ。
「かあさま、昔のことは全然教えてくれないぴよ。あたしも知りたいぴよよっ」
「「ごくり……」」
「……好奇心旺盛なんだぞ」
「ウゴ、そうだね……」
マルコシアスとウッドが顔を見合わせる。
果たして、ザンザスへの旅はどうなるのであろうか……。
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