647.ファントム

「やれやれ、すでにダンジョン化してるとはね」

「まだ確率は低いと思っていましたが……」


 ステラはすすっとナナボードから降りた。

 身体をはたきながら、ナナも砂漠に立ち上がる。


 ついでに羽についた黒い砂をナナはじっと観察した。


「色は黒いけど、砂質は地上の砂と同じだね。ダンジョン化はまだ初期段階だ」


 ダンジョン化には段階がある。初期は周辺の物質を取り込んだだけで、完全な異界にはなっていない。


 なお完全に成熟したのがザンザスのダンジョンである。広大かつ多層化するのだ。


「空はぼんやりしてますが、そう広くもないはずですね」

「そうだね。とりあえず中心に向かって急ごう」


 そこでふたりは前方に目を向けた。

 ぼんやりとした青白い影が宙に浮かんでいたのだ。


 風をまといながら、青白い影は金切り声を上げる。


「侵入者……!」


 影はぞくぞくと砂漠の奥から空を飛びながら現れてきた。


「帰れ……!!」

「消え失せろ……!」


 影は口々に叫ぶ。


「ファントムか。こんなのも取り込んでたんだね」


 ナナが少し後ずさる。

 ファントムはおぼろげな人の姿をした、魔力の塊だ。見た目は完全に幽霊である。


 実際、ところによっては幽霊として扱われる魔物だ。


 物理も魔法も効果が薄い相手で、冒険者にとっては厄介な相手である。もちろん見た目的にも恐ろしい。

 人の姿をして話をするというのは……。


「はぁ……なるほど」

「ステラは恐ろしくないの?」

「うーん……」


 ステラはおもむろに少し屈んで小石を取った。その小石をステラはぎゅっと握る。


「まさか」

「えいっ」


 パァン!


 ステラがファントムに向かって小石を投げる。ファントムは瞬時に弾け飛んだ。

 ナナが目をぱちくりさせる。


「ふぅ……」

「……」

「あれは魔力で声をまねて、怖がらせようとしているだけですよ。別に人間の魂がああなっているわけではありません」

「そ、そう……。諸説あると思うけど」

「基本的な原理は精霊と同じです」


 ステラはそう言うと、バットを振りかぶった。


「所詮、魔力を込めて石を投げるかポカポカすれば霧散します……! 雷に比べればどうということはありません!」

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