646.ダンジョン化

 大空へとかっ飛びつつ、ステラはバットを小刻みに振る。とはいえ破壊力は十分だ。

 砂の精霊は一撃で粉々になっていく。


 風を読みながらナナボードを揺らし、嵐の切れ目へとステラたちは突き進む。


 常人なら目を開けていられないほどの速度でも、ステラは全く問題なかった。


「どうですか、ナナ。まだまだイケそうですか!?」

「はやいはやいー!」

「雪山のときよりもハードですからね。もう少しの辛抱ですっ!」


 ナナにはどうやらこの加速はキツいらしい。

 とはいえ、これは雪山のときより断然速い。無理もなかった。


「ふと思いましたが、これって人類史上最速なのでは!?」

「余裕だね!?」

「まぁ、わたしはコントロールに集中しているので!」


 身体を使う仕事ならステラに隙はない。


 ヴィクターも下から風の弾を精霊に撃ち込んで援護してくれている。


 加速するナナボードにより、ふたりはついに砂嵐の中心部へと飛び込んだ。


 ステラがバットを握る手に力を込め、ナナも鞭を振るおうとした瞬間――。


「……?!」


 中心部への攻撃を開始しようとした直前、ステラは異変に気づく。魔力が異常に濃いのだ。


「ナナ、わかりましたか!?」

「ああ、僕にもわかったよ! ダンジョン化してる……!」

「むぅ、そうなると外側からの攻撃では……」


 ダンジョン化していると核はその内部にある。

 核を壊すということは結局変わらないのであるが……。


「ここまで来たら引き返せません! 突入します!」

「わかった……!」


 宮殿からの嵐も近づいており、時間もない。

 もしこの嵐と向こうの嵐が合体すれば、さらに厄介なことになるだろう。


 ステラたちがさらに空を進むと、灰色の雲に視界を覆われる。

 そしてふたりとも身体が揺れる――ダンジョンへと入った証だ。


「おおおっー?!」


 視界が開けると、そこは黒く汚れた砂漠であった。

 猛スピードで砂漠に突っ込みそうになるナナ。


 ステラがとっさに体重をかけてナナボードを浮き上がらせる。


「ぶえー!」

「頑張ってください、ナナ!」


 そのままナナボードはうまく角度をつけて黒の砂漠に滑りながら着地する。


 ズザザー!


 大量の砂を巻き上げながら、ふたりは砂嵐の内部へと侵入を果たしたのだった。

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