640.ステラは見ている

 バットをきゅっと握りながら、ステラは感じた。


 これほど風の強いところでバットを振ったことはあっただろうか?


 ステラがふっとつぶやく。


「これもまた、試練――……」


 エルトが隣にいたら「いや、水の中でスイングするほうが大変なんじゃ……」とツッコむところである。


 しかし風のせいでステラの言葉は誰にも聞こえていない。ツッコみ不在である。


「風はわたしから見て、右回りに高速で……ときおり断層が左回り……」


 上空の砂嵐はいよいよ黒くなってきている。

 大きさは宮殿を襲った嵐の4分の1程度だろうか。

 おそらくこれより大きくなると雷が落ち始めるのだろう。そうなると接近も難しくなる。


「よいしょーっと……」


 ナナが銃を構えてぱきゅんと撃つ。

 そのたびに近くの砂の精霊が弾け飛ぶ。


「ナイスコントロールです!」

「ありがとー。風が強いから遠めはキツいねぇ」


 砂の精霊がわっとステラたちに降り注ぐ。

 ステラはバットを短く持ち、塔の上を駆け出した。


 砂の精霊との衝突直前、ステラはコンパクトにバットを振り抜く。

 まず目の前の砂の精霊が木っ端微塵になった。


 さらにステラはバットを振って素早く構えを戻す。そしてまた振る。軽く、振り抜きすぎないように


「いちに、いちに……!」


 ステラは声に出しながらバットを小刻みに振るい続ける。


(*・ω・)_/彡 しゅしゅしゅっ……!!


 最小限のスイングで砂の精霊を壊し続けるステラ。


「……軌道も掴んできました」


 砂嵐から生まれる砂の精霊にも規則性がある。

 中心から右回りに降ってくるように生まれるのだ。


 つまりそれに合わせて移動していけば無駄がない。


「コカ博士もやっていますね……!」


 ちらっと見るとヴィクターも両手から風の刃を生んで精霊を撃ち落としている。


 ナナとヴィクターは遠くの精霊を倒しており、かなりのペースだ。

 ステラは全員の討伐速度を素早く計算する。


「この調子だと7分後くらいに、チャンスが来そうですね。エルト様のほうは大丈夫でしょうか……」


 少し心配になったステラは動きを止めることなく塔の下を確認していく。

 ステラの超人的視力をもってすれば、十分可能なのだ。


「あっ……」


(・Θ・ っ )つ三 ぐりぐり


 砂コカトリスが狭そうな穴に身体を押し込めていく……。可愛い。


 ステラはバットをぐっと握った。


「頑張らないといけませんね!」

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