592.要塞の門へ
「ぴよー。ここのサボテンはさっきのお土産用サボテン水と同じくらいぴよね」
「いっぱい植わっているんだぞ」
お土産用サボテンが大量に並んでいる。
もちろん収穫している人も多い。
「おや、お土産用サボテンは飲まれましたのかな?」
「ああ、おいしかった」
「ウゴウゴ、また飲みたいね!」
おじさんは嬉しそうに頷いた。
「ここのサボテンは雨だけでなく、地下水を利用して栽培しています。それゆえ甘みが強く、おいしくなるのです」
「へぇー……そうなんですね!」
それはステラも知らなかったようだ。
なるほど、しかし地下水か……。
「たまに故郷に戻られて、同じサボテンを育てる方もおられますが……あまり推奨はしません。水が合わないと苦味が出ますからな。最悪、お腹も壊してしまいます」
「こわぴよ」
「水が大切なんだぞ」
「ええ、サボテンは水が命ですね」
サボテントークに花を咲かせながら、要塞へと歩く。
近づけば近づくほど、要塞の威容に目を奪われそうになる。砂漠にそびえ立つ、乳白色の宮殿。
どことなく中東のような雰囲気があり、まさに異国情緒溢れる建築物だ。
サボテン畑を抜けると、宮殿の裏手に出る。
とはいえ、きちんとこちらにも門が用意されている。
たくさんの馬車が停まっており、宮殿のそばはワイワイガヤガヤと盛り上がっていた。
すでにかなりの人が到着しているらしい。
「予定では精霊学会は明後日からだ。今日と明日は特に予定はない」
「……コカ博士は?」
「俺は俺で発表の準備がある。明日はそれほど一緒にはいられん」
「なるほど……」
「わたしもアイスクリスタル討伐のコツを簡単にまとめてきただけですが……」
「それで問題はない。詳細な検討はプロの学者の仕事だからな」
ぽにぽに。
サボテン畑を抜けて少しすると、おじさんが軽く頭を下げる。
「それでは、私はこれくらいで。畑の世話がまだありますので」
「ありがとう、世話になった」
俺も軽くおじさんに会釈する。
「あの門に行けば、次の案内の者がおりましょう」
「これはほんの気持ちだ」
手を止めさせた礼はしないといけない。
俺はお腹のポケットから取り出した銀貨を手渡す。
「ありがたいことで。最近はサボテンの育ちもよくなくてね」
「そうなのか?」
「地下水が減っているのです。この学会でもそれが議題になるとかで」
「ふむ……」
「なんにせよ、暮らしが一番です」
それだけ言うと、おじさんは畑へと戻って行った。
俺たちの前には門があった。
丸みを帯びてヤシの木とサボテンの彫刻がしてあるな。
俺たちはまっすぐ要塞へと進んでいった。
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