591.サボテン畑

 きゅむきゅむ。

 俺とナナとヴィクター兄さん、ディアが砂の上を歩いていく。


「みんな、上手ぴよ! できてるぴよよ! ぴよっぽい歩き方ぴよ!」

「生粋のヴァンパイアには造作もないよ」

「これでもコカ博士と名を馳せている。無様な歩き方はしない」


 ナナとヴィクター兄さんが胸を張る。


 俺はそのレベルでは到底ないが、ディアの親だ。

 個人的に練習と観察を重ね、それなりのレベルのぴよ歩きができている。


 歩くときは少し左右に揺れながら、よちよち……っと。ぶっちゃけペンギンぽい歩き方だ。


 きゅむきゅむ。


 今回の精霊学会では擬態しないといけないからな。そんな感じでオアシスの要塞へと歩いていく。


 サボテン畑は近寄って見ると、すごいな。

 農作業の人たちがハタキみたいので砂を落としている。


 俺たちを見ると、そのうちの一人が進み出てきた。

 白髪まじりのおじさんだな。どうやら農作業のリーダーらしい。


「おや、学会への参加者ですかな?」

「そうだ、こちらの道からやってきた」


 ヴィクター兄さんが招待状をぴこぴこと見せる。


「お話は伺っております、どうぞどうぞ」


 おじさんの案内でサボテン畑の道を進んでいく。

 外周部にあるのは巨大なサボテンだな。大きさは俺と同じくらい、成人の背丈程度だ。


「ここのサボテンはなんて言うんだ?」

「栽培種なので……正式にはボトルサボテンでしたかな。ここまで大きくできるのは、砂漠の民だけでしょう」

「ふむふむ……」


 頭の中で思い出してみると――ボトルサボテンを生み出す魔法があった。

 どうやら使っていなかっただけで、使用可能リストにはあったらしい。


 まぁ、食べられるかどうかわからない植物は生み出さないからな……。


「ぴよ! サボテンがたくさんぴよねー」

「でも棘はないんだぞ」

「ウゴ、そういえばそうだね」

「お気づきになられましたか。このボトルサボテンはうまーく育てると棘はないんですよ。ま、手間はかかりますがね」


 なるほど、やはり現地でのノウハウがあるんだな。

 確かに棘がなく、効率的に育てられるならこのサボテンは有用だろう。

 他のモノは育ちにくいだろうしな。


 農作業の人たちがホースでばしゃーと上から水をまくのを眺めながら、俺たちは歩き続ける。


 5分くらい歩いただろうか。

 サボテンが小さくなり、街で見かけるサイズのサボテンばかりになってきたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る