586.砂の街の屋台

「ぴよ! さすがとうさまとかあさま、はやぴよよ!」


 ぽててーとディアが砂の山を駆け上ってくる。

 ウッドとマルコシアスも一緒に登ってきた。


「ウゴ、はやい!」

「多分、俺のおかげというよりは……ステラのおかげだが」

「いえいえ、エルト様の着ぐるみのおかげです……!」


 背中に乗ったステラが俺のお腹に手を伸ばし、さわさわしてくる。


 でもこの着ぐるみも、俺のおかげと言えるのか……?


 わからない。着ぐるみはどこまで俺のパワーなのか……!?


「ぴよよ。あと数回は降りたり登ったりできるぴよ?」

「だぞ。そんな感じだぞ」


 確かにあと数個、街までは砂の丘がある。


「ウゴウゴ、どうする?」

「ぴよ! かけっこぴよよー! マルちゃーん、おにいちゃん! はしるぴよー!」

「わかったんだぞー!」

「ウゴ、俺も行くー!」


 そう言うと子どもたちはてててーと走り出した。


 あっという間に砂の丘を駆け下りていく。


「……あの中で本気を出したらウッドが一番速いだろうが、加減しているようだな」

「歩幅が違いすぎますからね」


 ふと横を見ると、レイアが腹ばいになったナナの上に乗っていた。


「ありがとうございます、ナナ」

「君には世話になってるからね。トマトもよくくれるし」


 ズザザー……。

 レイアとナナがセットになって砂の斜面を滑っていく。


 ヴィクター兄さんもマイペースに腹ばいで進んでいくな……。


「では、行きましょうか……!」

「わ、わかった……!」


 ステラが適宜加速し、ズザザーと砂の丘を降りたり登ったりする。


 スザザザザー!!


 数分後、俺たちは街の入口にやってきた。


「ぴよよー! 楽しかったぴよよ!」

「わっふ。砂を走るのは気持ちいいんだぞ」


 ディアがぽふぽふとマルコシアスの砂を払う。


 ステラもすちゃっと俺から降りて、手を差し出してくれる。


「ふぅ、どうでしたか……?」

「うん……楽しかった」


 腹ばいでのサンドスライダー。

 これはめったにある体験じゃない。しかもステラのおかげで登ったり降りたりできるしな。


「それは良かったです……!」


 にこーとステラが微笑む。


「おっと、お腹に砂が……」


 ステラがぽむぽむと俺の着ぐるみのお腹を揉みつつ、砂を落としてくれる。


「ぴよ! あれ、なにぴよ……!?」


 ディアが街の入口の屋台を羽で指し示す。


 遠くて見づらいが……。

 サボテンのそばに屋台があり、テーブルの上にコップが並んでいるな。


 ステラが頷きながら答える。


「あれは……サボテン水売りです!」

「ぴよー! …………ぴよ」


 ディアはちょこんと頭を傾げた。


 どうやらサボテンと水売りの価値を測りかねているようだ。

 俺もどういう味なのかわからない。飲んだことがない。


「ぴよ……ぴよよっ……!」


 ディアが真剣に考え込んでいる。

 数十秒後、ついに結論が出たようだ。


 ディアがぴよっと飛び跳ねる。


「飲んでみたいぴよよー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る