587.お土産用ミニサボテン蛇口付き

 街に入ると一気に騒がしくなる。

 昼前ということもあり、様々な人が行き来しているのだ。


 トールマンもいれば、リザード族もそこそこ見かける。俺の国では珍しい人たちもけっこういるな。


「サボテン水、サボテン水はいらないかわんー」


 さきほどの屋台の店主は犬の獣人だな。

 もっしゃもっしゃとして暑そうだが……あっ、後ろに扇風機の魔法具を置いてる。

 さすがにそうだよな、という感じだ。


 屋台はカウンター兼テーブルがあり、軽く屋根もついている。椅子はなく、夜祭の出店にそっくりだ。


 店主の後ろには人の背丈と同じくらいのサボテンがある。青々、でっぷりとしている。


「ぴよ。蛇口がくっついてるぴよ」

「ウゴ、あそこをひねって水を出すんだね」


 店主の腕の位置に小さな蛇口がついている。

 あそこから水を出すんだろう。


 看板には値段が書いてあるな。


 サボテン水、ひと飲み――銅貨10枚

 サボテン水、果肉付――銅貨15枚

 お土産用ミニサボテン蛇口付き――銀貨3枚もしくは銅貨185枚


 俺も素早く計算する。


 前世の価値で計算すると……。

 銅貨1枚50円、銀貨1枚3000円、金貨1枚20万だ。


 つまりサボテン水500円、果肉付き750円、お土産用ミニサボテン9000円(銅貨だと9250円)ということか。


 最後の銀貨と銅貨で価値にちょっと差があるのは、手間賃の差である。銅貨も増えると数えるのも運ぶのも面倒なので、やむを得ないのだ。


 テーブルの上に50センチくらいのミニサボテンが置いてある。これがお土産用か。


「団体さんなら、ミニサボテン買ったほうがいいわんよー。どうせ水は飲まなきゃダメわん」

「むっ、それもそうだな」


 まぁ、手持ちのお金には余裕もある。

 水分も植物魔法でどうにでもなるから、そこまで切迫はしないのだが……。話の種にはいいだろう。


「このミニサボテンとサボテン水は同じものなんだよな?」

「同じだわん! ただ、果肉はちゃんと切れ味の鋭いナイフが必要わん。もしなければ、あっちの向かいの屋台で売ってるわん」


 店主の指差す方向を見ると、そこにも屋台があった。


『砂漠のサボテン切りをマスターしよう! 君は棘に飛びついてしまうのか?』


 ……どうやらナイフや剣を売っている屋台だな。


「大丈夫ですよ、サボテンもバターのように切りますから……!」


 ステラが胸を張る。

 俺も刃物は扱うし、ナイフまではいらないだろう。


「じゃあ、お土産用ミニサボテンをひとつ」

「お買い上げ、ありがとうございますわん!」


 銀貨と引き換えに、どーんと蛇口のついたミニサボテンが渡される。


「ぴよ……! すごぴよね!」


 そうだな。どこか落ち着ける場所で早速飲むとしようか。

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