585.滑って、登って

「もしかして、俺もああして降りないといけない流れか……?」

「ヴァンパイアの技能のうちのひとつなので」

「そうなのか……?!」


 初めて知った。


 ズザザァーー……。


 ナナとヴィクターは軽快に降りると、すちゃっと立つ。


「ぴよ! なかなかの滑りぴよね!」

「手足をピーンとさせ、バランスを取るのがコツだよ」

「なるぴよ……。あたし、賢くなったぴよよ!」


 街に着くまで、まだいくつか丘がある。


「さぁ……ぐいっと」

「わ、わかった」


 ステラに促され、俺はうつ伏せになる。


「……と言っても、どうするんだ? これ」

「わたしがそばにいる方法といない方法のどちらにいたしますか?」

「痛くないほうで」

「じゃあ、圧倒的にわたしがそばにいる方法がいいですね」


 圧倒的なのか。

 怖い!


「えーと、それで……」


 ステラがしゃがみ、俺の着ぐるみの上にうつ伏せに乗る。


 大して重くはない。着ぐるみと砂で重さを受け流しているからな。


「まさか……このまま進むのか?」

「そうです! わたしがコントロールしますので、エルト様はどうぞ心のままに駆け下りて頂ければと……!」


 砂の丘の下で、ディアが羽をぱたぱたさせている。

 どうやら待っていてくれているらしい。


「ぴよー! そのまま、れっつごーぴよ!」

「ごーごーなんだぞ!」

「ウゴ、危ないときは受け止めるから!」


 うぅ、ありがとう……ウッド。


「はふ、大丈夫ですから。驚異の体験が待っているだけです……!」

「お、おう」

「じゃあ、行きますよ……!」

「お手柔らかにな!」


 ズザザァー!!


 ステラがぽーんと砂を蹴ったのか、凄まじい速度が出る。


 俺はなすすべなく、砂の丘を滑り落ちていった。


「流れに身を任せるのです!」

「うぉぉー!」


 ズザザァーー!!


 そしてディアやマルコシアスたちの前を高速で通り過ぎる。


「止まってないぴよ!」

「そのまま次の砂の丘に滑っていく気なんだぞー」


 そう、次の砂の丘は最初の丘より小さい。

 なのでうまくやれば……次の砂の丘の上まで行ける。


 ……ダメだ、勢いが落ちてきた。


「いや、無理でしょ」

「物理的に不可能だな」


 ドンッ!


 しかしステラがまた大地を蹴ったのか。

 加速する!


「これで大丈夫です! コントロール! 着ぐるみの滑りを我が物とするのです……!」

「よくわからないが、これでいいのか!?」


 両手を広げ、お腹の下に力を込める。

 俺はそのまま、次の砂の丘を登っていった。……いや、滑り上がった。


「ウゴ、登ってる……!」

「あたしたちも続くぴよー!」


 ぴたっ。

 そして次の砂の丘の頂上で綺麗にストップする。


 レンガの街並みがもうすぐそばだ。

 あといくつか砂の丘を越えれば、街に入るだろう。


 ステラはうきうきしながら、言った。


「さぁ、ディアたちが来るのを待ちましょう!」

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