580.ス

 太陽は高く昇っている。時刻は昼前くらいか。

 うーむ、おそらく外はかなりの熱気だろう。


 俺は今のところ着ぐるみクーラーのおかげで、快適だが。


 ヴィクター兄さんがふもっとハンドを上げる。


「さて、そろそろ休憩地点だな。そこで軽食にしよう」

「ああ、わかった」

「ウゴ! この近くの村だね!」


 村の真ん中に降りるのは目立ちすぎるので、ちょっと離れたところに着地する。


 ふむ、やはり緑は多くないな。

 空気が乾燥しているからか。


 ここからは歩いていこう。


 ぽよぽよと歩きながら、俺はステラに話しかけた。


「これから行く村に心当たりはないんだな?」

「ええ、ありません……!」


 ステラは力強く言い切る。


 数百メートル先、茂みを越えると村がある。

 そこそこの大きさで、宿や休憩所もちゃんとあるらしい。


 ウッドに抱えられたマルコシアスが疑わしそうな声を出す。


「またまたスティーブンの村なんだぞ……」


 そう、地図によるとこの村の名前は『スティーブンの村』なのだ。


「ウゴ、3回目だっけ?」

「そのはずぴよね」


 村に人名がつくことはよくあり、スティーブンという名前もよくあるものなのだが。


「今回はわたしは絶対に無関係です。ええ、何もした記憶がありませんから」


 ナナがじぃっとステラを見つめる。


「本当に……?」

「この道は通ったことがありませんから。わたしが通ったことのあるのはもう少し北の道で……」

「地図だと絶対危険、魔物の巣窟らしいが」

「大丈夫です、物理が通る魔物だけなので」

「さすがステラ様です……!」


 レイアがきらきらした瞳で見つめる。


「レイアも鍛えますか? 10年あれば、ドラゴンを素手で倒せるくらいにはなれますよ」

「それはまたの機会に……」


 うん、10年はキツイな。


 そんなことを言いながら、15分ほど歩いたか。


 茂みが開けて村が見えてきた。


 ほうほう、やはりそれなりに大きな――。


「んん? なんだ、お祭りか?」


 いやに強烈な赤色や黄色の布やのぼりがある。

 さらに太鼓や笛の音……。


 村人らしき人たちが陽気に踊ったり、飲み食いをしている。


 どう見ても、村でお祭りをしていた。


「看板があるな……」


 村の手前には看板が差してあった。


『エルフの闘神、スティーブン様を称える夏祭りを開催中!』


 …………。


「ぴよぴよ……」

「だぞだぞ」


 ステラが叫んだ。


「やっぱりわたしじゃないですか?! でもこの村は知らないのです!」

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