581.とある村、三度

「わっふ。とりあえず村に行ってみるんだぞ」

「そうだな、休憩も必要だし」


 ぽにぽにと歩いていく。

 村の入口から、かなりの人が外で騒いでいるのがわかる。


 外はかなり暑いのか、誰もが汗を流しながら騒ぎ、楽しんでいた。


「スティーブン様に感謝を!」


 村人と商人らしき人たちが肩を組んで、調子ハズレの歌を歌う。


 ウチラ、山からやってきた

 トロルに追われ、命からがら逃げてきた

 腹ペコトロルは俺らの後ろ

 いよいよ終わりだ、さようなら


 そこに金髪の旅人やってきた

 トロルを投げて、追い返そうと戦った

 腹ペコトロルも諦める

 なんだかんだと助かった


 ウチラ、ここで生きていく

 トロルを倒したスティーブン様、ありがとう

 どこへ行ったか、誰も知らない

 でもでも語り継ぐよ、俺たちは


 多分、村に伝わる歌なのだろう。

 お酒が入ってみんな、気持ち良さそうに歌っている。


「あ、ああ〜……!!」


 ステラがぽんと手を打った。


「ぴよ! 思い出したぴよか!」

「やっぱりだぞだぞ」

「ち、違います! 確かにトロルの群れを倒しましたが、それはもっと北のほうです!」

「北……魔物の巣窟、危険地帯だね」


 ふむふむ、なるほど。

 話が見えてきた。


「そのときに、この村の先祖になる人たちを助けていたんじゃないか……?」

「馬車の隊列がありましたが……。じゃあ、あの人たちが、その子孫ということですかね」

「ウゴ、すっかり忘れてる」

「二足歩行で物理が効くなら、大した敵ではありませんし……」


 そこでディアがレイアにぴよっとたずねた。


「トロルってどんな魔物ぴよ?」

「石と土でできた、凶暴な精霊ですね。私はせいぜい1体か2体の討伐が限界ですが……」

「何体倒したの?」


 ステラが目を閉じる。

 ほんのり額に汗が浮かんでいた。


 やがてすっと人差し指を立てる。


「それは1ぴよ?」


 なかなか焦らすな。これはあと1、2本は指を立てるパターンだ。

 ステラはさらに中指を立てる。


「2になったんだぞ」


 そこから薬指も立てる。


「ウゴ、3だね」

「僕の考えでは、そこに10を掛ける感じかな」

「ま、まぁ……当たらずも遠からず、です!」

「相変わらずあなたはそーいうの、人に言わないよね」

「……褒められるのは苦手なので」

「ぴよ。でも惜しいぴよね。そのときにバットがあれば、ふきょーできたぴよよ」

「はっ……!?」


 そこでマルコシアスがこほんと咳払いする。


「もう今からはダメなんだぞ」

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