522.塔の前で、ぴよと握手!

 次の休日。

 入浴の塔は大盛況であった。


 ザンザスからも、商人を初めとして結構な人がやってきたのだ。「故郷への帰りにちょっと寄ってみるか」ということである。


 案内役のニャフ族がにゃにゃーんと案内をしている。


「土風呂は3階ですにゃーん。看板の注意事項をよく読んで、お楽しみくださいにゃーん」


 振替休日あり、さらに休日出勤で2倍のお賃金をもらえるため、受付係は人気である。


 受付からほんの少し離れたところには、物産コーナーがある。


「こちらでは入浴の塔でも使える、特別タオルやコップを売ってますにゃん。ぜひご覧くださいにゃー」


 マルデコットンを応用した薄手の服から、耐熱性を高めたコップなど……。

 もちろん、自宅用のアロマオイルやフレーバー類も置いていた。


 白髪混じりの商人が、ヒゲを撫でながら物産コーナーを見て回っている。


「じいさんがドワーフのところで働いていてなぁ……。話にはちょっと聞いていたが、こんな感じのロウリュだったんだろうな……」


 目を細めながら、フレーバー類を買い込んでいく。


 隣にいる商人専門の警備兵のおじさんは、マルデコットンの服に感嘆していた。


「軽い、伸びる……。防御力は期待できないが、南の暑いところでは……うーむ。よし、こちらを10枚頂きたい!」

「お買い上げ、ありがとうございますにゃー!」


 さらに入浴の塔の行列には、コカトリスの姿があった。テテトカも引率でついてきている。


「ぴよっぴー!」(おっふろー!)

「ぴよっぴよ〜!」(もくもく蒸気〜!)

「ぴよちゃん達はやっぱり水が大好きだねー」


 ヒールベリーの村にコカトリスが住んでいることは知れ渡りつつある。

 ザンザスでも告知しているし、村を普通に歩いているからだ。


 ザンザス近くの村からやってきたレストランオーナーの女性が、おずおずとテテトカに話しかける。


「あっ、あのー……ちょっとだけ握手いいですか?」

「握手、いいですよー」

「ぴよっぴ!」(もっちろんー!)


 女性が手を差し出すと、コカトリスが羽でもみもみする。


 ふわふわ……。

 もこもこもこ……。


「ああっ……! 本当にふわもっこしてるっ!」


(……このお腹も触り心地良さそうだな)


 女性はコカトリスのお腹を見て、そんなことをちらっと考えてしまう。


「ぴよぴよー?」(お腹も触るー?)

「お腹も触っていいみたいだよー」

「本当ですかっ!? そ、それでは失礼して……!」


 ふわふわ、もみもみ……。


 女性は極上の羽と、ささやかなたぷみを感じた。


「あ、ありがとうございます……!」

「ありがとうございます、だってー」

「ぴよぴー」(どういたしましてー)

「どういたしまして、だってー」


 そんな女性とテテトカ、コカトリスのやり取りを見ていた周囲の人達。


「じゃ、じゃあ……俺も記念に」

「一度触ってみたかったんだけど……」


 続々とコカトリスに触りたがる。


「みんな、触りたいんだってー」


 テテトカの言葉に、コカトリスはぴよっと答える。

 迷いなくキリっとした顔で。


「ぴよぴ!」(どんとこーい!)


 コカトリスは人と触れ合うのが大好きなのだ……!

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