521.ロウリュ味わう

 入浴の塔が開業して、数日後。


 俺は冒険者ギルドの執務室で、ナールから入浴の塔の報告を受けていた。


「村を通る商人の入浴率はなかなか良いですにゃ。その後のアンケートでも好評ですにゃ」

「ふむ……。とりあえず初動は成功と見て良いのかな」

「長距離を旅している商人ほど興味を持っている感じですにゃ」

「ロウリュの名前を聞いたことがあるのかもしれないな。思った以上にロウリュは知られているのかも」

「だとしたらラッキーですにゃ……!」


 世の中には前世の金平糖のように、由来が忘れられたものもあるからな……。

 金平糖も元はポルトガルのお菓子なのである。


 ロウリュもそうとは知らずとも、一部受け継がれている可能性もある。入浴文化なわけだしな。


「それでですにゃ……。ザンザスの鍛冶ギルドがツアーで来たいとのことですにゃ」

「……ほほう」


 ステラと過去、ちょっとあった鍛冶ギルド。

 向こうから話を振ってくるとは……。


「もちろん断る理由はない。入浴の塔作りでも世話になったからな。歓迎しよう」


 ◇


 入浴の塔、ロウリュの部屋。


「はぁー……いいですねぇ……」


 ステラはディアと子犬姿のマルコシアスを伴って、ロウリュに入っていた。

 まだ午後一で、利用者は多くない。この階は貸切状態である。


 ステラは全身タオルでベンチに寝転がり、ロウリュを満喫していた。

 今のロウリュ部屋では、樹木系の優しい香りがする。


「今日は午後から仕事がありません。はー……いいですねぇ……」

「2回目なんだぞ」

「2回目ぴよね」


 ステラの胸元にはマルコシアスとディアがいる。

 二人のためにロウリュの温度は低めにしてあった。


「だらーんです……」


 ステラは全身の力を抜いて、ふにゃふにゃしていた。


「ぴよ。かあさま、時にこんなかんじぴよね」

「思ったより自分ライフを楽しんでいるんだぞ」

「もちろん……そのために生きていますから」


 ふにふに。

 ステラの手がディアとマルコシアスを優しく撫でる。


「無意味な儀式や慣習に縛られていたくないですし、退屈も好きではありません。ここは実に楽しいです……。ふふふ……」

「ちょっと闇を感じるんだぞ」


 マルコシアスが小さくつぶやく。

 なんとなくステラの故郷のことを言っている気がしたのだ。


「ところでマルちゃんは、ロウリュは大丈夫なのですか? 無理はしないでくださいね」

「そうぴよ。お水はたくさんあるぴよよ」


 部屋の棚にはコップ置き場がある。

 そこには常に水分補給用の飲み物があるのだ。

 もちろん持ち込みもできる。1階で耐熱性コップも販売していた。


「思ったより大丈夫かもだぞ。なんとなく、故郷でもこんなことをしていた気がするんだぞ」


 マルコシアスがふにっとタオルに顔を埋めた。

 そんなほかほかマルコシアスを、ディアが撫でくりする。


「なるぴよ……。マルちゃんの故郷も楽しそーぴよね」


 ディアの頭には、つやつやのワンちゃん王国が思い浮かんでいた。


「まぁ……でも長時間は危険かもですからね。そろそろ上がりましょう」


 むくりとステラが半身を起こす。


「また明日、今度は柑橘系を試しに来ましょう……!」


 英雄ステラ。未踏破エリアをクリアしたい冒険者は、力強く決意するのであった。

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