514.ヒールベリーの村、特製フレーバー

「よろしいのですか……!?」

「やったことがあるのは、ステラだけだしな」


 住人に聞いて回ったが、結局ステラ以外は経験がなかったのだ。

 水をさすだけ、かもしれないが最初は経験者がやったほうがいいだろうし。


「わかりました、ではわたしが……!」


 ステラがサウナストーンの側へと進む。


「お試しで5種類ほど、作ってきました!」


 アナリアが小瓶を載せたトレーを持ってきた。


「ほうほう、色々とあるのですね……」

「エルト様の生み出した最高級の植物をブレンドしましたので。外からのお客さんにも、楽しんでもらえるレベルのはずです……!」


 アナリアがむふーと胸を張っている。


「ふむふむ……」


 ステラは小瓶をすっと開けては閉じていく。

 ここからだと匂いはわからんが、ステラは感覚が鋭い。一瞬でもわかるんだろうな。


 最後の小瓶。

 そこにステラが反応した。


「むむっ! こ、これは……!!」

「やはり気が付かれましたか。これは……ゴニョゴニョ」


 アナリアがステラに近寄り、耳元でささやく。


「かなりの再現度ですね!」

「お褒めに預かり光栄です……!」

「もちろん、これにします!」


 ……?

 ステラがここまで好反応だとは。


 よくバラを浮かべたお風呂には入っているようだし、それ系統かな……?


「ふふふ……」


 陶器のおしゃれなポットに水を入れる。

 そこに小瓶から液体を流し込む。


 ん……?

 少し香ってきた。


 お日様の匂いか。

 なんだろう、嗅いだことのある匂いだが……。

 でもそれだけじゃ言葉が足りない気がする。


「なにぴよねー。楽しみぴよねー」

「……わふ。母上らしいんだぞ」

「マルちゃんはもうわかったぴよ?」

「我の嗅覚なら完璧なんだぞ」

「さすマルちゃんぴよ!」


 準備が整ったようだ。

 ステラが背筋をピンと伸ばし、ポットを掲げる。


「では、参ります!」


 どばどばー……。


 結構な量の水がサウナストーンへと注がれる。


 瞬間、大量の蒸気がむわっと生まれた。


「「おー!」」


 一気に広場へ熱が広がる。


 ……サウナっぽい!

 まぁ、野外なのだが……。


 そして一気に鼻孔へと香りが――。


「ぴよ?」


 ディアが首を傾げる。


「ふぁー……ああ、これです……!!」


 サウナストーンの側にいる、ステラが悦に入っていた。


「……これは……」


 俺にはわかった。

 このフレーバーは間違いない……!


「にゃにゃ……。さすがアナリアにゃ」


 ナールも気が付いたようだな。

 半ば呆れ顔ではあったが。


「ふふふ、すこーしだけバラと柑橘系は混ぜましたが……ふふふふ」


 アナリアが得意げな顔である。


 俺は確信を込めて呟いた。


「……コカトリスの匂いだ」


 ちなみに、コカトリスはお日様のとても良い匂いがする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る