515.フレーバーの評価

 問題はコカトリスの反応だが……。


「ぴよぴ……!」(くんくん、この香りは……!)

「ぴよ……! ぴよ」(仲間の香りだ……! ちょっと違うけど)

「ぴよ。ぴよよー」(再現度高い。むぅ、ほかほかの温かみと仲間のにおいー)

「ぴよぅ……」(眠くなって、きた……)


 んん?

 コカトリス達が持たれかかり、ゆっくりと地面に体を横たえていった。


「……どういうことだ?」

「ぴよ。なんだか眠くなってきたっぽいぴよよ」

「わっふ。コカトリスはいつもお互いに抱き合って寝てるんだぞ」

「なるほど……。しかもロウリュで温かいしな。寝るモードに入ったのか」


 蒸気が凄い。

 俺も手でパタパタと仰ぐ。


「うっすらとバラと――オレンジっぽい香りもするぴよね」


 アナリアが解説する。


「隠し味ってやつですね! 爽やかな雰囲気を足しています!」

「わふ。春にふさわしいんだぞ」

「そうだな、これからの季節にはいいな」


 しかし……だんだんと熱さがヤバくなってきた。

 野外で少し風があるとはいえ、サウナストーンの側は熱すぎる。


 だが、まだフレーバーは残っているな。

 ……やはり試したほうがいいか。


 こういうのを並べて見せられると、試したくなるのだ。


「はぁー……。お外だと、匂いはすぐに散ってしまいますね」

「だけど、他のも試せるじゃないか。小瓶はまだあるんだろ?」

「ええ、ございますとも……! どれも自信作です!」

「そうですね……。それでは、次はこれとか……」


 ステラが手に取ったのは紫色のラベルが貼ってある小瓶だ。


「ラベンダーなフローラルなやつですね! どうぞどうぞ!」


 こうして次はアナリア特製のフレーバーを試して回り、試運転会は終わった。


 フローラルや樹木、樹脂、柑橘系と一通り揃っていたな。思い返すと、ぴよ系だけ異色だったな……。

 他は普通に良いフレーバーだった。


 住人の反応を見ても、最低でもひとつは好ましい匂いがあるようだな。


「俺は柑橘系が好きだな……」

「樹脂系の強いのがいいな。癖になる」

「フローラルと樹木の優しい系が好きですニャ」


 悪くない反応だ。

 ロウリュの部屋を増やしてもいいかもな。

 香りごとに部屋を変えるのも手だし。


 後片付けも終わり、解散の時間になる。


 俺は別れ際にアナリアへ感謝を伝えた。


「ありがとう、有意義な会になった。全て良いフレーバーだったが、アナリアはこういうのも得意なんだな」

「どういたしまして……! 普通はこうしたことは、薬師の領分とはちょっと違うのですが」

「やはりそうか。香油類は医療とも無関係ではないが……」


 しかし同一とも言えない。


「高等学院で様々な香水や香油の調合も習得しますが、生業になるかどうかは住むところにもよりますね。材料がなければ作れませんし」

「それもそうだな……」


 豊かな香りを作るには材料が必要だ。

 今回は俺の植物魔法で生み出した、いわゆる特別製なわけだしな。


「……ポーションの材料がなくて、憂鬱な――いえ、手慰みにやっていたのが役に立ちました」

「……」

「ふふふ……。人間、何が役に立つかわからないものです……!」


 お、おう。

 そういう事情があったのか……。


 まぁ、おかげでロウリュのフレーバーも村で生産できるから、結果オーライだがな……!

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