第11章 春にぴよみをそっと添え
504.ぴよ服の製作開始
その日の夜、ナナの工房。
日が落ちてまだ時間は経っていない。
まだ村からは喧騒が聞こえてくる。
エルトからサイズ表をもらったナナは、首を捻りながらぴよ服の構想を固めていた。
「羽は……腕より大きいけど、自由度が必要。そうなると袖の大きさは……」
ナナは素早くアイデアを書き留めていく。
「どうぞ。ホットトマトです」
「ありがとう。ちょうどトマトが欲しいと思ったんだ」
ナナの作業するテーブルの上に、レイアがコップに入ったトマトスープを置く。
「……いいのかい? 僕だけが作業して。やりたいんじゃないの?」
トマトスープをすすりながら、ナナが問いかける。
「いえ……私には子ども用のデザイン着ぐるみはデザインできません。ましてディアとウッドとなると、荷が重いです」
「そーいうところ、割と考えているよね」
ナナは現役のSランク冒険者だ。
レイアの立場――すなわち冒険者ギルドのグランドマスターという地位についても、正確に理解していた。
グランドマスターは世界で12人――実は国王の数より少ないのである。役割は伝統的に、冒険者ギルドの管理下にある『迷宮都市』の統括。
「他のグランドマスターはもうちょっと質が違うというか……ま、レイアは若いんだけどね。史上最年少でグランドマスターになったんだっけ?」
「……昔の話ですよ」
レイアがやや頬を赤くして答える。
「ぴよちゃんとザンザスのことをやっていたら、そうなっただけです。それに悔しくないわけではありません。もっと着ぐるみ製作の腕は上げたいですし……」
「素敵な心構えだ」
ヴァンパイアにとって、着ぐるみは服以上のモノである。それは生命線であり、一生追求するものなのだ。
それゆえ着ぐるみを学ぼうとする姿勢は、ヴァンパイアにとっては嬉しいことである。
「ぴよぴよ」(るんるんー)
「ぴよっぴよ」(お散歩終わりー、帰りましょー)
家の外からぴよぴよが聞こえてくる。
「……まぁ、あまり言わないけど僕も着ぐるみ作りには誇りを持っているからね」
「おお……! もちろんそうですよね!」
「他の人たちに理解してもらうのは難しいだろうし。僕も学院時代は苦労したものさ……」
「私もザンザスの宣伝部隊に取り入れるのには苦労しました」
レイアはヴァンパイアではない。
とてもコカトリスが好きなだけである。
「じゃあ、少し応用編を教えようか。子ども用の着ぐるみなんだけど――」
「ぜひ! ありがとうございます!」
そんなナナの工房をお散歩コカトリスが通り掛かる。
「ぴよ」(そういえばここって……例の人の作業場だよね)
「ぴよよ……!」(そう、ぴよみを求める人の……!)
「ぴよっ」(ぼくたちのファンの!)
「ぴよぴよ」(羽を振っておこう、ふりふり)
「ぴよー」(ふりふりー)
「ああ、ぴよちゃんが窓の外から羽を……!」
「挨拶かな? 返しておこう」
ふりふりー。
お互いに挨拶を交わす。
その日の夜遅くまで、工房の明かりは消えることがなかった。
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