505.テテトカの提案

 翌日。

 冒険者ギルドで仕事をしていると、ナールとテテトカがやってきた。


「にゃーん。よろしいですかにゃ?」

「ああ、大丈夫だ。一段落したところだからな」

「お邪魔しますー」


 うーんと伸びをする。

 春になって明らかに商人や旅人が増えた。少し忙しさが増えたが、収入も増えている。


「最近忙しくなってきたが、ナールのところは大丈夫か?」

「にゃ! 組織がしっかりしているから、大丈夫ですにゃ。むしろこれから夏に向けて頑張りますにゃ……!」


 ナールがいつになく張り切っている。


「テテトカのほうはどうだ? 無理はしてないか?」

「おかげさまでー、好きなときに食べて寝てますー」

「それは何よりだ」


 ドリアードの生き方はマイペース。それは大事にしていかないとな。


「にゃ。それで今日来ましたのは、テテトカから相談があるようなのですにゃ」

「ですですー」

「ほう、どんな内容かな?」


 俺が軽く身を乗り出すと、テテトカがぽてぽてと近寄ってくる。


「実はですねー、土風呂がけっこう手狭になってきましてー……。もっと多くの人が入れるようにしてもらえないかなーと」

「なるほど……。春だからかな?」

「冬だと野外は寒いですにゃ」

「まぁ、盛り盛りコースは水浴びもついているからな……」

「村の外からの人も増えるなら、どーんと大きくしたほうがいいかなーと」


 ここら辺りは雪もほぼ降らないとはいえ、水浴びはキツイ。

 だが暖かくなれば、当然やりたがる人も増えるか。


「土風呂を見ているのはテテトカだからな、わかった」

「ありがとうございますー」


 しかし……珍しいこともあるな。

 テテトカはマイペースで、先々のことは『なんとかなるさ』タイプだ。

 もちろんドリアードはあらゆる感覚が常人離れしているからだが。


 それが村の外からの人も気にするようになるとは。

 嬉しい変化と言えるだろう。


「……ところでどうしたほうがいいとか、アイデアはあったりするか?」


 俺はちょっと踏み込んで聞いてみる。


「んー、そうですねー……」


 テテトカは首を傾げながらも、答えてくれた。


「たとえばぼくたちの住んでいる塔みたいに、たかーくしたら……いいような気がしますー」

「それはいい考えだな」

「にゃ! いいですにゃ!」


 確かに拡げるなら縦の方向が良い。

 コース別にもしたいしな。


 俺は力強く頷いた。


「よし、そのアイデアでいこう……!」

「いいんですかー?」

「うまく行くと思うよ」

「あちしもそう思いますにゃ!」


 ナールがにこにこしている。

 多分、テテトカを連れてきたのはナールだろう。

 ありがたいことだ。


 ……おっと、そういえば。


「建物で、ひとつ聞いてみたかったのだが……」

「にゃん?」

「ここら辺りには、サウナみたいのはあるのか?」

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