503.特別編・マルちゃんの部屋

 その日の夜――ジェシカは不思議な夢を見ていた。


 爽やかな草原にソファーがあり、いつの間にかそこに自分が座っているのだ。


 風が優しく眠気を誘う。


「これは……むぎゅ」


 ジェシカの両隣にはコカトリス姉妹がいた。


( ╹▽╹ )✧\(>o<)ノ✧( ╹▽╹ )


 ぎゅむっとジェシカはサンドイッチになっている。

 みっちみちである。


「ぴよ!」(いぇい!)

「ぴよっぴ!」(これは……マルちゃん時空!)

「ぴよよ!」(知ってるのか、妹よ!)

「ぴよよっ!」(ほのかに知ってるっ!)


 るーるる、るるる、るーるる。


 謎の音楽が草原に鳴り響く。


 ……ひょっこり。

 いつの間にか、ソファーの前にはふかふかの椅子があった。


 そこにはふもっとした子犬姿のマルコシアスがいる。


「なんなのですの、これは……!?」

「マルちゃん時空なんだぞ」

「……意味がわかりませんわ」

「ぴよ」(考えるな、感じるんだっ!)

「?!」


 ジェシカが目を剥く。


「えっ……!? コカトリスの言葉が、頭の中に浮かんできますわ……! 意味がちゃんとわかりますわ!」

「ぴよよ」(マルちゃん時空の効果で、一時的に会話ができるみたいだね)

「そ、そうなんですの……? いえ、紛れもなく会話はできてますわね……」

「マルちゃんパワーを全開にしてるんだぞ」

「…………」


 そこでジェシカは少し考え込む。


「頭の中に言葉を流し込むなんて、聞いたことありませんわ。とんでもない魔力が必要なはず。……安全なのですわ?」

「ぴよ?」(聞いちゃう、それ?)

「ぴよよ……」(聞かないほうがいいことも、人生にはあるかもよ……)

「ちょっと! 凄く不安ですわよ!」


 そんなジェシカにマルコシアスはゆっくり答える。


「理論上、30分以内なら無害なんだぞ」

「危険! それを世の中では危険と言うのですわ!」

「なので30分以内に済ますんだぞ。オッケーなんだぞ?」


 ジェシカがふぅと息を吐く。

 どうやらマルコシアスのノリに乗らないといけないらしい。


「……仕方ありませんわ。それで、何をやるのですわ?」

「意外と順応してるんだぞ」

「この村の生活で慣れてきましたわ」

「ぴよ」(成長してる)

「ぴよよ」(進化しつつある)

「うぅ……まぁ、そういうことですわ」

「いいことなんだぞ。それで今回の特別企画は……水の中でも寝られるデカラビアちゃんからのお題なんだぞ」

「ごくり……」

「『のどかな空間でどれだけ起きていられるかな!? お昼寝我慢対決ー!』だぞ」

「ぴよっ!?」(なんとっ!?)

「ぴよよー!?」(激闘の予感がするー!?)

「…………」


 ジェシカはぐっと拳を握った。


「勝ちましたわ……!」


 ◇


 25分後。

 コカトリス姉妹は――。


「ぴよぅ……すやー、ぴよ……」

「ぐぅ……。ぴよよ……」


 ソファーですっかり寝落ちしていた。


「……完全勝利ですわ」

「だぞだぞ。良かったんだぞ、30分以内に終わったんだぞ」

「えっ。あれはマジでしたの?」

「ささっ、勝者のジェシカには景品があるんだぞ」

「今、話をそらしましたですわ?」


 ジェシカのジト目にマルコシアスは動じない。


 マルコシアスはふかふかの椅子の後ろから、液体の入った瓶を取り出す。

 両手で2本ある。


「これなんだぞ!」

「なんでしょう……なんか緑色の液体が入ってますわね」


 マルコシアスが軽く瓶を振る。


 どろっ。


 とても粘り気のある液体である。


「健康マニアのアスタロトちゃんが気合入れて作った、特製青汁なんだぞ。一口で元気が爆発、お目々ぱっちりなんだぞ」

「なんだかヤバそうですわ」

「用法容量を守れば素晴らしいんだぞ」

「さきほども似たような台詞を聞きましたわ。ちなみに中身は?」

「マジカルなハーブやスペシャルな木の実、ポイズンな草、もやし……」

「危ないですわ」


 そこまで言って、ジェシカは両隣を見る。


 ぴよっと、もふっとしたコカトリスが寝ていた。

 とても気持ち良さそうである。


 コカトリスなら――まぁ、植物性ならだいたいなんでも大丈夫だろう。


 ジェシカはにっこりと微笑んだ。


「こちらのぴよちゃん達に進呈しますわ」


 ◇


 ……後日談。


「ぴよ……!」(寝起きにぴったり……!)

「ぴよぴ!」(快適な目覚めだ!)


 特製青汁はコカトリス姉妹がおいしく頂きましたとさ。

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