461.ボスの元へ

 普通の星クラゲより10倍近くデカい。

 恐らくあれが星クラゲのボス個体だろう。


 距離は……100メートル? 細かくはわからないが、相当距離は離れていた。

 そして、ボス個体と俺達の間には星クラゲがみっしりいる。


「しかし、ちょっと集まりすぎじゃないか……?」


 ボス個体が動き出したのと同時に、周囲から星クラゲがどんどん沸き上がってくる。


 それは夜の闇に星を散りばめたかのよう。

 星クラゲの名前に納得しかない。

 美しくも身震いする。


 星クラゲの大群は四方八方から押し寄せてくる――数百? もしかしたら千を超えているかもしれない。


 ヴィクターが俺の隣で、ボス個体を指差す。


「しかも遠ざかっているな。逃げるようだ」

「えっ? 逃げる!?」


 びっくりして聞き返してしまった。


「星クラゲは単純な魔物だが、ボスには多少の危機回避能力がある。どうやらこちらに敵わないと見て、逃げ出すようだ」

「……ここで逃がすわけには……」


 この深い闇の空間で取り逃がすのは、あまり良くない。


「別の出入り口からダンジョンの外に出るかもですわ!」


 ジェシカが手を止めずに叫ぶ。

 もちろんその可能性もある。


「エルぴよちゃん……!」


 ステラがたたーっと俺の近くに寄ってくる。

 ……なんだろう。

 この流れは何回か見た気がする。


「わたしを投げてください! あの木の腕で!」

「?!」

「ふむ……それは悪くない案だ」

「いや、博士の風魔法で行ったほうが……」


 俺の言葉を遮るように、ヴィクターが着ぐるみヘッドをずいっと接近させる。

 俺の視界いっぱいにぴよヘッドが――むしろぴよヘッドしか映らなくなる。


「天井の高さがわからん。あと……適当に射出するならまだしも、俺の魔法では精密性が犠牲になる」

「お、おう……」

「エルぴよの植物魔法ではどうなんだ?」

「……集中すればかなりの精度が出る」


 大樹の腕の魔法には地面が必要で、さらに俺から離して展開することができない。

 その代わり、パワーと精密さでは上位に位置する。


 村で練習してきた通りにすれば、何かを相当の速度で投げたりも可能だ。


 ……人を投げるとは思わなかったが。


「いいのか!? 本当に!」

「いいですとも! ズドーンと!」


 ステラが両腕を広げる。

 すでにやる気満々である。


「ウゴ、かあさんを……止めることはできない」


 ウッドが決意と情熱に満ちた目で頷いている。

 止めるつもりはないようだった。


 俺も意を決して、大樹の腕を操作する。


「い、いくぞ!」

「はいー!」


 ステラを大樹の腕で掴み取る。

 もちろん力を入れないようにだ。


 そしてぐっと持ち上げ――投げる構えを取る。


「ぴよ……!」(これは……!)

「ぴよよ!」(いってらの雰囲気!)


 持ち上げられたステラがすちゃっと手を振る。


「では、いってきます!」

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