453.その頃……

 その頃――海上の船。


 暇を持て余したディア達は、草だんごをこねこねしていた。


 ディアは小さな木箱に乗って脚でふみふみしている。もちろん布で覆っているので、綺麗な草だんごだ。


「ぴよ。揺れるなかで作るのもおつぴよねー」

「風情があるんだぞ」


 マルコシアスは少女姿でこねこねしていた。


「ふぅ……こねこね……」

「頑張るぴよ。まだ3個目ぴよ!」

「わふ。頑張るんだぞ!」


 ディアが作った草だんごはすでに5個。ちなみにララトマは8個目である。


「焦ってはだめです……! ひとつひとつ、十分にこねこねです!」

「らじゃーぴよ!」

「こねこねなんだぞ!」


 その様子をほわほわした目で眺めているレイア。


「……いいですね……」

「いや、なんか喋る犬が人に戻って、船員はあぜんとしてんだけど……」


 船乗り達はいきなり人型になったマルコシアスに、ちょっとビビっていた。


「あれは変化の魔法? あるいは幻覚の魔法……?」

「いずれにせよ、あんな長期間の変身だ……。相当な魔力なんだろうな……」


 しかも明らかに高貴な雰囲気がある。貴族の血統なのは疑いようもなかった。


「深く考えてはいけません……」

「どうしても知りたいってわけじゃねーけどさ、そんなにワケありなのか?」

「ナーガシュ家のご親族、としか聞いておりませんが……」

「ふぅん……?」


 レイアの答えにルイーゼは目を細めた。

 ルイーゼの頭の中には、国内の大貴族の情報はあらかた入っている。

 その中にマルシス――マルコシアスの情報はなかった。


「一時期、王家とナーガシュ家が色々あったとか聞いたけど……」

「…………」


 レイアがほわほわした目のまま、冷や汗をかく。

 その噂はレイアも知っているが迂闊なことは言えない。


「ま、いいさ。ザンザスとライガー家はお友達になるんだ。細かいことは言いっこなしだ」


 ◇


 一方、ヒールベリーの村。


 テテトカが野菜類をニャフ族へと引き渡していた。


「にゃにゃーん。生産は順調にゃん」

「おかげさまでー」


 今日村に来た馬車には、農業用の資材がたくさん積み込まれている。

 もちろんドリアード向けの品物もたくさんあった。

 良質の水や土、肥料はドリアードにとってはなによりの贅沢である。


「いい土と水、幸せですー」

「なによりですにゃん!」


 ドリアードとニャフ族もだいぶ仲良くなった。


 そこへコカトリスがどたどたと走り込んでくる。


「ぴよー!」(たいへん、たいへん!)

「んー? どうしたのー?」


 コカトリスが急ブレーキをかけて、テテトカの手前で止まる。


「ぴよっぴよ!!」(キノコのタタキなんだけど……タタいたの忘れて、またタタいて干したら……さらにおいしくなった!!)

「ど、どうかしたのかにゃん……?」


 テテトカがコカトリスのお腹をぽよぽよしながら、答える。


「キノコをおいしく食べる方法を見つけたんだってー」

「……なるほどにゃん」

「よかったねー、ぴよちゃん」


 テテトカが和やかにそう言うと、コカトリスはぴよっと答えた。


「ぴよよ!」(じゃ、帰ってお昼寝します!)

「はーい」


 そうしてコカトリスは宿舎へと何事もなく帰っていく。


「……もう慣れてきたのにゃん」


 ブラウンは一連の流れを振り返り、うんうんと頷いてたのであった。

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