447.海底神殿の彫刻

 時間通りに港へ行くと、すでに他の人達も集まってきていた。

 ……今日はヴィクター(着ぐるみ)も朝からいるな。ぴよっぴよしている。


「星クラゲの集団は他にもいるが……とりあえず海底神殿を第1目標とする」

「ああ、異論はない。星クラゲは海底神殿から増えたのかな?」

「個体の特徴からして、恐らくそうだな。海底神殿をどうにかするのが近道だろう」


 そんな感じで打ち合わせをして、また海へと出発する。……天気があまり良くないな。


 雲は分厚く、空気が湿っている。

 ルイーゼがふよふよと浮きながら、空を見上げていた。


「ちょっと雨が来そうだなー」

「やはりそうか……?」

「まー、潜水部隊は元より海に潜るから関係ないだろーけど。コカトリスは雨とかどうなんだ?」

「ぴよっ?」

「安心してくれ。コカトリスは雨にも強い。この羽毛はマジカルな性質を持っているんだ」


 ヴィクターがコカトリスのお腹をぽふぽふする。

 ナチュラルな動作だ。


「ぴよよ〜……」


 気持ち良さそうにコカトリスが目を細める。


「よしよし……」

「おっ、そろそろポイントだな」


 海を見るとブイが浮いている。


「そろそろ行くか」

「はい……!」

「ウゴ、頑張る!」


 ステラとウッドが意気込む。


「さて何が出るかな……」

「着ぐるみは万全だ。問題ない」

「今回も私はサポート頑張りますわ!」


 ナナとヴィクター、ジェシカも準備はいいようだな。

 ……ここに俺も含めると、着ぐるみ率が高い気がするが。3人もぴよっぴよしてる。


「ぴよちゃん達も大丈夫みたいですね」

「「ぴよー!」」(がんばるー!)


 それに俺は頷く。ぴよ率はすごく高い。


「よし、海底神殿へ突入だ!」


 ◇


 ざぶーん。


 空は曇りでも海は静かだ。

 どんどんと潜っていく。


「ぴっぴよー!」(らいと、オーン!)


 コカトリスの目がぺかーと光る。

 俺もライトを点灯させてっと……。


 ぺぺかー。

 ジェシカがいるおかげで、水中会話もできる。


「やっぱり便利だな、この着ぐるみ……」

「まぁね。実用性にはこだわり抜いてるし」


 ナナも目をぺかーと光らせている。

 まぶしい。


 海底にゆっくり潜り目的地へと向かう。

 特に異常はないな……。


「星クラゲも出てこないな」


 海底神殿が見えてきて、どんどん近付いているのだが……。


「昨日ので相当倒したのかも、ですね」

「ウゴ、頑張ったからね……!」

「網でかなり引き上げられてましたし……!」


 本命は海底神殿の中だからな。

 その前に障害がないのはありがたい。


 そのまま海底神殿から少し離れた海底に着地する。

 ライトの奥には荘厳な神殿が見えていた。


「ふむ……大きさはザンザスの会堂くらいか?」


 空から見たザンザスを思い出す。

 海底神殿は大きなようで、地上にないほど巨大というわけでもない。

 思ったよりもこじんまりとしている。


 そのまま海底を警戒して泳ぎながら、神殿へと接近する。


 ……感じるな。

 魔力の揺れというか、渦のような……。


 地上や海面では感知しなかった、魔力の流れだ。

 首筋がぞわっとする。


 ライトが神殿そのものをぼんやりと照らす。

 あと数十メートルか?


「ん……?」

「どうかされましたか?」


 神殿の外壁……。近寄ったことで、細かな部分までわかるようになった。


 ……頭に前世の記憶が流れ込んでくる。

 俺は……知っている。


 石造りの外壁にはタコやイカ、リヴァイアサンの彫刻が刻まれていた。それは俺の知っているゲーム世界と寸分違わず同じだ。


 このちょっと丸っこい彫刻。タコとイカ……ではなく、正確には他の海の魔物のはずだが。


 間違いない。

 何百回もゲームで攻略した海底神殿のエリアと同じだ。


 ……初めてだ。

 前世でやったゲームと全く同じ建物は。

 今まで、こんなことはなかったのに。

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