446.ナナの好奇心

 翌朝。

 着替えてご飯を食べ、出発準備を整える。


 丸洗いした着ぐるみも完璧だな。

 リボンがピンと立っている。


「ぴよ!」(すっきりー!)

「ぴよよ!」(やる気があふれる!)


 心なしかコカトリス達の目がぱっちりしてる。


「ぴよ。きっと昨日はよく眠れたぴよね」

「昆布に巻かれてスヤスヤだったぞ」


 ちなみにマルコシアスはステラに抱っこされ、爪を切られていた。


「わふ。レベルが下がるんだぞ」

「美容度はレベルアップしますから……」

「マジぴよ?! あたしもレベルアップしたいぴよ!」


 ディアがぴょんと跳ねる。

 かわいい。


「……ウゴ、ディアに切るところはないかも?」

「ぴよ!? ……ないぴよ?」


 ディアが首を傾げる。

 ララトマも目をこすりながら、


「うーん、ないと思うのです……!」

「ぴよ! つまり…… レベルアップできないぴよよ!?」


 そこでマルコシアスがわふっと、


「むしろ、我が主のかわいさは限界マックスなんだぞ!」

「ぴよー! ありがとぴよ!」


 ぴょーんとディアが飛び跳ねる。

 どうやら納得したらしい。


 俺はそっとディアを抱きかかえる。


「ディアのかわいさは特別だからな。マルコシアスも可愛いけれど……」

「ぴよ!」


 ディアが俺の着ぐるみをぽふぽふする。


「とうさまもカワイイぴよよ!」

「……あ、ありがとう」


 そうなるよな。

 可愛いエルちゃんぐるみだからな……。


 ◇


 宿舎の別部屋にて。


 締め切った空間の中に、着ぐるみ丸洗い機が動いている。


 ごうんごうん……。


 丸洗い機の中にはナナの着ぐるみがぐるぐると回っていた。それをナナは静かに見つめている。


「回ってますねぇ」


 ぴしっとしたレイアが、背後からナナの肩に頭を乗せる。


「……重い」

「体重はそんなにかけてませんけど……」

「なんとなく、重い」

「むぅ……」


 レイアがちょっと頬を膨らませる。


「心配してるんです。今日はまた海に潜るんですから。船から降りたとき、足がくがくだったじゃないですか」

「海はやっぱり苦手なんだよ。なんでもなかったとしてもね」


 ナナの足がぷるぷるしている。

 着ぐるみがあると言っても、海は怖い。それはヴァンパイアの本能である。


「……でも逃げないんですよね」

「逃げないよ。それにこれは武者震いだから。あの海底神殿は――とても興味深い。研究者として、ね」


 昨日の午後、潜ってみてナナも驚いた。

 確かに海の底に古ぼけた神殿がある。各地の伝承に詳しいナナでさえ、こんな遺跡の話は聞いたことがない。


「危なくなったらすぐ引き上げるよ。でもこの好奇心は抑えられない」

「わかる気がします」


 レイアがナナに語りかける。


「私もぴよちゃんの生態のためなら、世界の果てにも行けますからね」


 ナナがじとっと横目でレイアを見る。


「……いや、君の情熱には負けるよ」

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