448.神殿の中へ

 俺はとりあえずステラへ頭を振った。


「いや、何でもない……」


 俺が動けないでいる中、ナナがすーっと神殿の外壁に近寄っていく。

 強烈なライトで、外壁がますますはっきり見える。


「彫刻は……古代っぽいね。デザインはかなり古い。建造の年代はすぐにはわからないけど、500年は昔だろう」

「凄いですわ……」


 ジェシカも海底から神殿を見上げている。

 コカトリス達も目をぺかーしながら、見上げていた。


「ぴよ……」(古め……)

「ぴよよ……」(とってもビッグ……)


 ……。

 神殿に近寄り、ぺちぺちしてみる。


 質感、彫刻の位置やデザイン……。

 やはりゲームの中と同じだ。


 だが近寄ってよく見ると、つもったチリがかなり多いな。

 さらに思い出してきた。


 ゲームの中の海底神殿はもっと浅瀬にあった。

 海面から光が届き、珊瑚に囲まれたきらびやかなエリアだったはずだ。


 目の前の海底神殿は……位置として深すぎる。

 光も届かないし、珊瑚も何もない。


 ……わからん。

 なぜゲームと同じ建造物がここにあるのだろうか。


「この神殿が気になるのか」


 いつの間にかヴィクターが隣に来ている。

 俺は率直に答えた。


「……はい」

「あのタコの彫刻はダゴン種、イカの彫刻はクラーケン種だな。そしてリヴァイアサン……。古くから強大な海の魔物として悪名高い。この神殿は海の平穏を祈って建てられたものだろう」

「似たような遺跡を見たことが……?」

「俺はこの着ぐるみを着て、色々と飛び回っているからな。当然、いくつもある。……どうした?」

「いえ……」


 俺の心臓がどくどくと音を立てている。

 この遺跡と同じような――他にもあるのか?

 ゲームと同じ建物が……。


「…………」


 自分でもわかる。動揺している。


 俺はこの世界と前世でのゲームを……魔法やスキル、魔物や人種といった物だけが共通していると思っていた。それ以外の地理や歴史、人物には全く共通点がないのだ。


 あたかも世界のシステム面だけを持ってきたような……そんな風に理解していた。

 でもそれは間違いなのかもしれない。


 ステラがじっと俺を心配そうに見つめる。


「……本当に無理をされていませんか?」

「あ、いや……問題ない。心配をかけたな」


 俺は思考を打ち切る。

 やめよう、今考えても仕方ない。


 とりあえず星クラゲをどうにかしないとな。


「そろそろ入ろうか」


 海底神殿は円柱が支える形になっている。

 特に扉みたいなものはないな。


 そのまま、柱と柱の間を進めばいいだけだ。

 この点もゲームと同じだな……。


 と、少し中に入ると――ぐにゃりと立ちくらみがした。めまいがする。


「……?!」

「エルト様……お気をつけくださいっ!」


 ステラの鋭い声に続き、ナナも声を上げる。


「ダンジョン化してる! 油断しないで!」


 良かった、めまいはすぐに薄れてくる。

 視界がひらけてきた。


「……これがダンジョンか」


 俺の目の前には、ジャングルが広がっていた。



〜コカ博士とマルコシアスの対話〜


「不安なときはコカトリスのお腹を揉むといい。ヒーリング効果がある」


……?!✧◝(⁰▿⁰)◜✧


「もしコカトリスのお腹を揉めないときは……ぬいぐるみでも構わない。精神の均衡を保つのに役立つ」


……?!✧◝(⁰▿⁰)◜✧


博士はいつも揉んでるんだぞ……?


「ふっ、大人になってからは控えているがね。子どものときはよく揉んだものだ」


レイアは今も揉んでるらしいんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧


「むっ……俺と同じマインドセットに……? なるほど、やはり中々できるな……」

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