429.無理

 ステラの渦はそのまま、星クラゲを巻き込んでいる。


 潜水部隊の人達は唖然としているな。やはりびっくり仰天だよな、普通。

 でもこれがザンザスの英雄ステラの力なのだ。


「おお……すごい! ナナもあれが出来るのか?」

「できないよ!!!」


 ナナが羽をバタバタさせた。否定するナナにウッドが言う。


「ウゴ、でもばびゅーんとかを使ったら……」


 おっ、ウッドは俺と同じことを思ったみたいだな。

 その言葉にナナがぴたりと動きを止める。


「はっ……! …………できるよ!! でもやらないよ!!!」

「素直ですわ」

「そーいう機能じゃないからね! 元々、空を飛ぶためのモノだから!」

「ふむ……」


 目の前の星クラゲは渦に巻き込まれ、海面へと送られている。


「星クラゲの泳ぐ力はさほど強くないんだな。あの渦もメチャクチャ大きくて速いというわけでもないし」

「ですわ。元々網も破れない程度ですから」

「ウゴ、だからかあさんの渦が有効?」

「……出たとこ勝負だと思うが、正解だったようだな」


 渦の外にいる星クラゲが何体かいるが、それらは脅威ではない。ぱぱっと片付ける。

 合わせて海面に送られた星クラゲが網でどんどん引き上げられる。



「渦に巻きこめば、こっちのものか。逃れたクラゲはいないようだし」


 とりあえず目の前の群れを討伐すると、ステラも動きを止めた。渦が消えてなくなる。


 目を閉じていたステラが、ぱちっと目を開ける。


「どうやらうまく行ったみたいですね……!」

「ああ、ステラのおかげだ!」


 海中ではやはり動きに制約がでる。

 まとめて対処できるなら、それに越したことはない。


「それで――ナナもできそうでした? ばびゅーんの出力があれば、いけるかと思ったのですが」


 ……。


 じーっと皆の視線がナナへと集まる。

 ナナは羽をバタバタさせて、


「やるよ!!! そっちのほうが効率良さそうだし!!!」


 ◇


「ぴよー……」


 その頃、ディアはレイアの懐で海を見つめていた。


 ぴよアイは視力も良い。さらには光ったりもする。

 そんなぴよアイは海中の出来事もしっかり捉えていた。


 セットで抱えられているマルコシアスがディアに話し掛ける。


「どうかしたんだぞ?」

「ぴよ。かあさまがぐるぐるしてたぴよ!」


 船上で指揮に専念するクロウズが首を傾げる。


「……どういうことですかな?」

「ぐるぐるして、渦巻になってたぴよ!」


 クロウズはますます怪訝な顔をする。

 海クラゲは海面に送られているので、作戦はうまく行っているのだろう。


 だがディアの話した内容がよくわからない。


「意味がよくわかりませんが……確かに渦があるような……」


 ステラが作ったのは海面にできるほど巨大な渦ではない。あくまで水中での回転である。


「いえ、わかりましたよ……! ステラ様なら、ありえます!」


 ぐっとレイアが身を乗り出す。


「猛烈に水中で回転し、渦や海流を生み出す! そういうことですね?!」

「そういうことぴよ!」

「そんな無茶な」


 クロウズがツッコミを入れた、その瞬間。


 大きな渦が船の前に出現した。


「うおっ、まさか……!?」

「……魔力を感じるんだぞ」


 ふにふにとマルコシアスが鼻をきかせる。


「ナナぴよっぽいんだぞ!」

「さすがSランク冒険者! ナナにもできたんですね!」

「ということは……ぴよよ!」


 ディアが何かに気付いたように、マルコシアスを見つめる。つぶらな瞳で。


「マルちゃんも、回るぴよか!?」


 それにマルコシアスは静かに答える。


「無理なんだぞ」

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