400.出航

 俺達はそのまま中型の帆船に乗り込む。

 ここが潜水部隊の船だな。


「ぴよー。これがお船ぴよねー」

「揺れるんだぞ……!」


 二人を見てもらうのはレイアに任せた。

 ディアとマルコシアスを抱っこしてほわほわしてる……。


「波の揺れが来ますからね。遠くを見ると良いですよ!」

「なるぴよ!」


 ちなみにレイアとジェシカに対する目線も厳しいものを含んでる。頭にコカトリス帽子があるのが原因だと思われるが……。


「久し振りの波の上、ですわー!」

「やる気ぴよね!」

「水のことならジェシカにお任せ! ですわ!」


 水道屋さんみたいなセリフだ。


「ウゴ、大丈夫……?」

「揺れますけれど……思ったほどじゃないです! 大丈夫です!」


 ウッドが付き添いながらララトマも乗船する。

 船酔いが心配な一人だったが、すぐには問題にならないみたいだな。

 意外とドリアードはタフだから、ピンピンしてるかもしれない。


「ぴよー」(これが船かぁー)

「ぴよぴよ」(こんなのが浮くんだねー)


 コカトリスはさっそく船をぺちぺちしてる。


「あれがホンモノのコカトリスか……」

「……役に立つのか……?」


 ちなみに兵士や船乗りが一番、胡散臭そうな目を向けているのがこのコカトリスだ。


 このぴよペアが役に立つのか?

 俺も確かには言えない。やる気になってくれれば凄く役立ってくれるが……。

 全てはダイエット気分にかかっている。


「……ふぅふぅ」

「どうしたんだ? ナナ」


 ナナの動きが固い。

 いつものなめらか着ぐるみ機動じゃないのだ。


「海では何があってもこの着ぐるみを脱がない。その不退転の覚悟のせいだよ」

「ヴァンパイアは水が苦手ですからね……」

「そんなにか……」

「この着ぐるみには船酔い防止機能もついているんだ。色んな意味でこの着ぐるみナシはヤバい。秒で船酔いする」


 うん……もしかしたら一番覚悟してるのはナナかもしれない。


「頑張ろうな……!」


 俺はもふもふハンドを握りしめた。


 俺も頑張ろう、着ぐるみ潜水……!


 ◇


 船が港から離れる。

 他の船も続々と人が乗り込み、出航していく。


 一番大きな船が旗艦で、ルイーゼはそこに乗り込む。

 ……すでに船先にふよふよ浮いているが。


 ステラがそんなルイーゼを見上げて呟く。


「便利ですねぇ……」

「指揮を取るのは楽そうだな」


 ちなみにこの船にはクロウズが乗り込んでいる。

 お目付というか、そんな感じだろう。


「俺、この戦いが終わったらプロポーズするんだ……」

「……俺も……うぅっ!」


 なんだか船乗り達には悲壮感があるな。

 潜水部隊はそれほどの役目か。


「リヴァイアサンが出た海域まで三十分ほどかかります。それまでごゆるりと……」

「案外近いんだな」

「それゆえに困っておるのです。もし今回の作戦が不首尾で長期化すれば漁にも影響が出ます」

「それだと食料事情も悪化するな」


 俺の言葉にクロウズが静かに頷く。


「然り、様々な悪影響があります」

「ぴよー! おっきな船ぴよよー!」

「一番ビッグなんだぞー!」


 ディアとマルコシアスは旗艦に目を奪われているようだ。


 確かに旗艦はデカい。この船の2倍か3倍はあるか?

 乗り込んだ船乗りも百人を超えていたと思う。


「あれは何という船なんだ?」


 俺はなんとはなしにクロウズに尋ねた。

 街案内の時の様子からして、こういう話題なら大丈夫だろう。


「あれはライガー家でも有数の大型船、この街一番の船になります」

「……へぇ……」


 船を見上げるステラがなんだかテンション下がり気味に応じる。

 人の話に珍しいな。


 その目線の先を俺も追って――んん!?。


 あの船先にある像って、まさか……。

 望遠鏡機能で拡大してみる。


 ……あっ。


「気が付かれましたか。精巧で歴史ある像が冠されたあの船こそ! 我らがスティーブン号なのです!」

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