401.黄色い点

 ……なるほど。

 あの旗艦についてる船首像か。


「ちょっと小さいな……」

「あれは元々、一番最初期に作られた銅像なのです。街にあったのを船の建造時に持ってきました」

「なるほどな。街の伝統を背負っているわけだ」

「仰る通りでございます」


 ステラの視力はあの像を捉えたわけか。


「……何か?」


 押し黙るステラにクロウズが問いかける。


「いえ、なんでもありません……」


 ステラは遠い目になっていた。

 コカトリスは早くも準備体操をしている。


「ぴっぴよー」(泳ぎの時間だー)

「ぴよよー」(体をほぐしてー)


 上下運動をしていると、たぷ具合がわかるな。


 たっぷんたっぷん。


 そんな感じにコカトリスの体がなっていた。


「けっこうたぷたぷぴよね……」

「私はこのままでもいいと思うのですが……」


 レイアはコカトリスに甘い。


「ふよんふよんになっちゃうんだぞ。たぷたぷを超えるんだぞ」

「健康大切ぴよ。しゅっと引き締まった『ぼでぃ』がいいぴよ」

「しゅっと……それはそれで良いですね!」


 レイアは単純だ。コカトリスのことについては。


 船団はそのまま沖合へと進んでいく。

 空は晴れ渡り、雲はほんのまばらにしかない。

 雨に降られる心配はなさそうだ。


 周りを見ると船がたくさんある。後ろを振り返ると出発してきた港町。


「いいぴよねー」

「見所満載なんだぞ」

「潮風も気持ちいいです!」


 着ぐるみで風を感じることはできないが、眺めは良い。


 ステラがふぅと少し肩を落とす。


「この航路だと……海コカトリスは見られなさそうですね」

「ウゴ、そうなの?」

「陸地の見え方からすると、方向が少しずれてますね。この先には海コカトリスはいないはずです」

「なるほど、それは残念だな」


 入念に海コカトリスの生息域をチェックしてたのだが、このタイミングでは無理か。


 だが、クロウズがおずおずと言う。


「……それなのですが、海コカトリスの住んでいるところは少しズレてます」

「えっ、本当ですか!?」

「リヴァイアサンの影響、とでも言いましょうか。各地の報告では海のコカトリスの群れが移動しているようで」

「リヴァイアサンの影響!? 許せませんね!」


 ステラに秒で火が付いた。

 瞳の奥がめらめらと燃えている。


「コカトリスがあちらにいますわ!」

「本当ですか!?」

「私も見たいです!」


 ジェシカの言葉にステラとレイアが駆け寄る。

 どれどれ、どの辺りだ?


「ほら、あの岩場の近くに……」


 ……まだ遠いな。

 ジェシカは船の進行方向を指差している。

 その先の小さな岩場の近くに、黄色い点がいくつか見えた。

 気が付かないとスルーするな、これは。


「ぴよ! なかまぴよ?」

「まだ遠めなんだぞ」

「でもだんだんと近付いて……ぴよー!?」


 ディアが叫ぶ。

 その理由は俺にもすぐにわかった。


 黄色の点のひとつが、ふよふよと空に浮かんでいるのだ。


「なっ……」


 コカトリスは空を飛ばないはずじゃ!?


「ぴよー」(飛んでるー)

「ぴよよ!」(怪奇、空飛ぶコカトリス!)


 望遠鏡機能を持つナナを見ると、ふむふむと頷いている。

 どうやらあの黄色い点は見えているらしい。


「あれはコカトリスじゃないね」

「黄色いんだが……」


 俺の言葉にナナが首を振った。

 黄色い点が徐々に大きく、はっきり見えてくる。


 ステラがナナに同意するよう頷く。


「あれは――ぴよ博士です!」

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