359.草だんごの縁

「ウゴウゴ、こんにちは!」


 ウッドはララトマのどもりを気にすることなく、元気良く挨拶を返す。


「ウゴ、こっちにどーぞ!」

「あ、ありがとうです……!」


 ララトマはカチコチに緊張しながら、ベンチに座る。


 緊張はあったけれど、でも不安は少し消えていた。

 ウッドの声が弾んでいたからだ。きっと悪い話ではないんだろう。


「ウゴ、今日は来てくれてありがとう……」

「気にしなくてもいいです、いつでも呼んでくれれば……!」

「ウゴ……嬉しい」


 直球に過ぎるかもしれない、ウッドの言葉。

 しかしララトマもまた、ドリアードで駆け引きや打算を知らない。

 そのウッドの言葉が、率直に響く。


 しばらくお互いの近況を報告し合う。

 もちろん狭い村の中だ。直接聞かなくてもある程度はわかる。


 でもこれは、いわば植木鉢の苗を見守り育てる作業なのだ。

 本当に愛おしいなら、それは手間にはならない。


 ウッドとララトマの距離が段々と近づく。

 もう膝が触れ合える距離だ。


 それをひそかに見つめる影が二つあった。

 二人に見えない死角から、コカトリス二体がじーっと成り行きを見守っている。


「……ぴよ」(……ごくり)

「ぴよよ……」(ドキドキ……)


 自分達のお世話をするララトマが気になって、代表として見に来たコカトリスだ。


 とはいえ、ララトマは気が付いていない。

 ウッドはなんとなく気配を察していたが、スルーすることにした。


「ウゴ……それで地下通路に行って、プレゼントがあるんだ」

「そ、そうなんです?」


 声がうわずったララトマ。そこへウッドがバッグから箱を取り出す。


 黒と銀で装飾された、落ち着いた色の箱。


「はわ、はわわ……」


 物を持たない暮らしのララトマにも、この箱が『気持ち』の表れということはわかる。


「ウゴ……きっとこれなら、いいと思って」

「……開けてもいいです?」

「ウゴ、もちろん!」


 ララトマがそっと箱を開ける。

 そこには――でーんと巨大草だんごが入っていた。


「こ、これは……!」


 ララトマが目を見開く。

 こんな大きな草だんごを見たのは、久し振りだった。


 遠い遠い、この村に来るよりも昔――姉のテテトカが作ってくれた……気がする。

 その程度の記憶だ。


「いいんですか……?」


 巨大草だんごを作るのには、真紅のキノコが必要だったはず。

 その苦労を思うと、ララトマはちょっとだけ胸が苦しくなった。


「ウゴ、ぜひ食べてみて……!」

「はいです……!」


 ララトマの迷いは吹っ切れた。

 ウッドの真心――とにかく、そんな物が伝わってきたのだ。


 さすがに大き過ぎるので、ちぎって食べるしかない。


「よいしょっと……」


 ララトマは巨大草だんごから、ふたつちぎった。

 そのうちのひとつを、きゅっと握る。


「はい、あーんです……!」

「ウゴ……!」


 ララトマは一切れを掲げる。

 意図を察したウッドが背を曲げて、その草だんごにぱくつく。


 もぐもぐ。


 ララトマもそれを見届けてから、一切れを口の中に放り込む。


 もぐもぐもぐ。


「……おいしいです!」

「ウゴ、良かった……もぐもぐ」


 二人は同じ草だんごを食べながら、話に花を咲かせる。


 それはまるで、寄り添う恋人達の距離だった。


 ……一方、見守るコカトリス達。


「ぴよ……ぴよ」(よかった……じゅるり)

「……ぴよ」(……よだれ出てる)

「ぴよよ……ぴよ」(失礼、おいしそうだから……じゅるり)

「ぴよ、ぴよよ?」(大丈夫そうだし、もう行く?)

「ぴよ……ぴよよ」(そうだね……草だんご食べたくなった)


 コカトリスが振り返ると、ウッドの膝にララトマが乗っているようだった。

 本当に幸せそうなオーラに満ちている。


「ぴよー」(お幸せにー)


 ふにふにと小さく手を振り、コカトリスは宿舎へと戻っていったのだった。

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