360.秘密にはしておけない
ウッドによりかかりながら、ララトマは春の風を頬に感じる。
背中には確かなウッドの、頼りがいのある大木があった。
「……嬉しい、です」
巨大草だんごも食べ切った。少し日も傾いてきた気がする。
「ウゴ……」
名残惜しいけど、一旦帰らないといけない。
まだ二人きりで暮らすとか――そこまでは考えられない二人だった。
「ウゴ……またこうして、一緒にお日様にあたろうよ」
「はいです……! もちろん!」
ララトマは腕を伸ばしてウッドの頬に触れ、それから膝を下りた。
こうして、初めての二人きりのデートは終わったのであった。
◇
リビングではディアがマルコシアスの肉球とお腹を揉んでいた。
もみもみ……。
「ぴよよー……そわそわ、ぴよ」
「我を揉んで落ち着くんだぞ」
「ぴよ。落ち着いて、落ち着いて……マルちゃんを揉むぴよよ……」
ディアはマルコシアスのお腹に顔を寄せる。
落ち着いている感じじゃないな。
ウッドがララトマに会いに行っている。
俺もわけもなく、リビングをぐるぐると歩き回りそうだ。
「落ち着くのですよ……! きっとうまくいきます!」
「……そうだな」
ソファーに座り、俺にべったりとひっついてくるステラ。
その手は俺の手を揉んでいた。
あと微妙に服の上から、俺の腹筋もさわさわしてるな。
……ディアと同じことをしているわけだが……。
相当、そわそわしているらしい。
「ま、まぁ……きっと大丈夫だろう、うん……。もう数時間経つんだぞ?」
ぽむぽむとステラの頭を撫でる。
きっと仲良く話し込んでいるに違いない。
「そ、そうですね……。わたし、その……」
「いや、いいんだ。それだけウッドを心配してくれてるんだから」
ステラからの断片的な話を聞く限り、彼女も家族関係が良かったとは言えない。
というより、かなり悪かったと思う。
だから家族のこうした話が心配なのだ。
俺も――正直、悩んでいるところはある。
前世の家族や親戚、友人。
残念ながら、思い出せないのだ。
俺の前世の記憶は、この世界に関連しないと前に出てくれない。
でも多分、そう恵まれてはいないのだろう。
思い出せないということは、そういうことだ。
……ガチャリ。
玄関から鍵を回す音がした。
鍵を持って出た家族はウッドだけだ。彼が帰ってきた。
「ウゴウゴ〜! ただいまー!」
「ぴよよー! おかえりぴよー!」
「おかえりなんだぞ!」
どたどたとディアとマルコシアスが出迎えに行く。
「ふむ……大丈夫だった、のかな?」
ウッドの声の調子から、俺はそう判断していた。
「……そうですね、大丈夫だったのでしょう」
ステラが俺の手を取り、頬すりする。
数秒そうしてから、ステラも立って玄関へ行く。
「おかえりなさいです……!」
俺も立ち上がり、息を整える。
「おかえり、ウッド」
出迎えたウッドの顔は、実に晴れ晴れとしていた。
うまく行ったみたいだな……!
良かった……!!
◇
数日後。
冒険者ギルドの執務室。
お見合い会が近付いてきて、その打ち合わせだ。
とはいえ、ほぼ報告を聞くだけだが。
テーブルの上には、レイアデザインのコカトリス着ぐるみが置いてある。
「少し改良しまして……」
「……お腹がちょっとふっくらしたか?」
「お目が高い、その通りです! 小物が入るように、何体かには仕込みました」
「なるほど……」
レイアのテンションは上がっている。
コカトリス着ぐるみお見合いを開催するのが、楽しみのようだな。
「参加者締切もそろそろか」
「ええ、来週末にはお見合い会を開きますので」
食事の手配もあるからな。
「……シュガーも参加するはずと思うのですが」
「まだ予約受付してないのか?」
「まもなくザンザスから戻ってくるはずですので、恐らく今日明日には……」
そんなことを話していると、ドアがノックされる。
何かあったのかな?
「どうぞ、入ってくれ」
「にゃ。お話中、失礼しますにゃ」
「失礼します……!」
……珍しい組み合わせだな。
ナールとシュガーが並んで執務室に入ってきた。
「レイアもいるし、ちょうどいいのにゃ。エルト様と一緒に聞いて欲しいのにゃ」
「ほうほう……なるほど」
席を立とうとしたレイアが、また席に戻る。
シュガーがやや難しい顔をしながら、俺やレイアを見渡した。
「ちょっとした報告がありまして……!」
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