332.魔導トロッコの試運転

 不安はちょっとだけあったが、広場でさっそく魔導トロッコのテスト走行をすることにした。


 すでに夕方だが、すぐに終わるそうだ。


 倉庫を出たポンガ達はさっそく、レールを組み立て始める。馬車に積んであったらしく、せっせと降ろしては組み立てていく。


 木と金属部品。

 確かに前世の電車のレールに似ているか。


 あっという間に十五メートルほどの路線が組み上がった。


「早いな……」

「平坦ですし、テスト走行用ですもぐ! すぐに出来ちゃいますもぐ!」

「グワハハハ! 朝飯前――おっと、夕飯前にはテスト走行も終わりますぞ!」


 そしてイスカミナによってアナリア(生贄)が連れてこられる。


 すでに魔導トロッコはレールに乗せられている。

 アナリアはイスカミナによって操縦席に座らせられ、操作説明を受けていた。


「この赤いレバーを下げると、進むもぐ!」

「ふむふむ……」

「こっちの青いレバーはブレーキもぐ! 今は動かしても何にも起きないもぐ!」

「……気休めのレバーですか?」

「はっきり言って、気休めほどの意味もないもぐ!」


 ぐっと親指を立て、ウインクするイスカミナ。


「は、はぁ……大丈夫なんですよね?」

「大丈夫もぐ! あ、それでこっちの速度メーターとかもまだ飾りもぐ! 気にしなくていいもぐ!」

「……アクセルしかまだないんですか?」

「いいところに気が付いたもぐ! 完全にアクセルしかないもぐ!」


 あとは起動スイッチくらいか。


 レールの先では万が一に備えて、ステラとウッドが待機している。


「いつでもオッケーです!」

「ウゴ、ちゃんと受け止める!」


 あの二人ならドラゴンの突進も止められるからな。


「……止めるなら今のうちだぞ?」

「い、いえ……! 私はイスカミナを信じていますから!」

「持つべきものは親友もぐ!」


 イスカミナが微笑む。

 親友をアクセルしかないトロッコに乗せてるとは思えない笑顔だな。


 まぁ、本当に危ないはずはないか……。


「ぴよよー! これが走るぴよね!?」

「なんか色々とパーツがくっついてるんだぞ」

「かっこいいぴよー!」


 ディアと子犬姿のマルコシアスはぺたぺたとトロッコを触りまくっていた。


「もぐ! ちょうどいいもぐ、どっちが速いか競争するもぐ?」

「ぴよ!? たのしそーぴよね!」

「負けないんだぞ!」

「マルシスが本気出したら、絶対に勝つと思うが……」

「赤いのは使わないんだぞ!」

「ぴよ! かけっこぴよ!」


 二人ともやる気のようだな……。


 ちらっとアナリアを見ると、緊張しながらも降りるつもりはないらしい。


「ドキドキ……!」


 ……それなら是非はない。

 動かそうか、魔導トロッコ!


 ◇


 村の人達も集まって見守るなか、魔導トロッコの試運転が始まろうとしていた。


 トロッコからちょっと離れて、ディアがいる。

 今にもダッシュする気満々である。


「負けないぴよよー!」

「負けてもいいから、かっ飛びませんように……!」


 台の上に立った、イスカミナが片腕を上げて合図をする。


「スタート、もぐ!」

「えーい!」


 アナリアが赤のレバーをガコン、と下げた。


 ブオオオオン……!


 ガタガタと魔導トロッコが震え、轟音が響き渡る。


 おお……エンジン音! エンジン音だ!

 ちょっと感慨深い。

 この世界で聞けるとは思ってなかったからな。


「エンジンが動いたんだぞ!」


 ちなみにマルコシアスは俺が抱えている。

 ぴこぴこと尻尾が揺れていた。


 そしてディアは……。


「ぴよーー!!!」


 ぽにぽにぽに。

 ディアは全速力で駆け出している。

 まだ小さいがかなりの速さだ。その辺りはコカトリス本来の身体能力によるものか。


 対して魔導トロッコはブォォォ……と起動している。起動しているが……。


「…………」


 皆が見守るなか、ディアは十五メートルを駆け抜ける。


「ぴよーー!! ゴールぴよー!」

「速かったですよ……!」


 ディアが羽を広げながら、ステラの足元にズザーと滑り込む。

 うむ、なかなかのスピードだ。


「……ぴよ?」


 ここでディアが不思議に思ったのか、魔導トロッコを振り返る。


「ぴよ? 進んで……ないぴよ?」

「いえ、ちょっとずつは進んでいますね……」

「ぴよ? 本当ぴよ?」


 頭を傾げたまま、ディアがこちらに走って戻ってくる。


 ガタゴト、ガタゴト……。


 魔導トロッコはゆっくり、ゆーっくりと進んでいた。亀のごときスピードである。


「ぴよ……」


 ディアは魔導トロッコの隣に来ると、そのレール部分をじっと見つめる。


「ぴよ。アナリア、もっと速くてもいいぴよ」

「……これが全速力なんです」

「……ぴよ、なるぴよ……」


 ガゴガコと赤いレバーを連打しても何も変わらない。これが地上での全速力か。


「もぐ! 試運転は成功もぐ!」

「おー、ちゃんと動いたとは大したものですぞ!」


 ベア族とイスカミナは盛り上がっている。


「良かったんだぞ。やっぱりここだと、こんなもんなものなんだぞ」

「レールを移動し終えるまでに、真っ暗闇になりそうだな」


 やはりこれが現在の限界速度か。

 でも良かった、お星さまにならないで。


 のろ……のろ……。


 魔導トロッコはゆったりと進んでいるな。

 それに並行して、ディアがトコトコと歩いていた。


「ウゴ、俺が押そうか……?」

「ぴよ! いいぴよね!」


 ……というわけで。


 ウッドがえいとトロッコを押して、十五メートルをクリアした。


 ま、まぁ……何はともあれ、魔導トロッコの第一段階はクリアだな!

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