329.鉢植え出荷
ステラ達が戻ってきてから、物事が動き始めた。
正確にはより色々なことが動き始めた、ということだな。
数日後、大樹の塔。
「北に送る花の第一弾がこれだな」
俺は作業場を視察していた。
そこではニャフ族とドリアードがせっせと作業をしていた。
揃えられた鉢植えに、植物とドリアード特製ブレンド土を入れていく。
このブレンド土にもドリアードのこだわりがあり、大切なんだそうだ。
とりあえずは鉢植え十個。それを先行して送ることにした。ナールもほくほく顔で作業を見守っている。
「にゃ。エルト様の作られた高品質の花を増やして鉢植えにしてますにゃ」
「ですですー。北の人達はこーいう花が好きなんですねー」
「そうだな。やはりバラやアイリス、エーデルワイス……みたいのがいいらしい」
この辺りは地球でも人気だった気がする。
……正直、詳しくはないが。
しかし同じ人間なので、感性も同じなのだろう。
そう思えば不思議ではない。
「ひまわりもですー?」
「にゃ。北の地では食べ物や油を取る用として、重要ですにゃ」
「ヴァンパイアの書状のいくつかにも、ひまわりの紋章があったな」
「王国北部でもたまに、ヴァンパイアの地からひまわりの種や油が来ましたのにゃ。花も大きくて見て楽しい、食べても美味しい植物ですにゃ」
ふむふむ。やはりナールはよく知っているな。
北部出身者がいるのは大きい。
俺も前世を含めても雪国で生きた経験がない。
そういうところは、他人の知識から学ぶしかないからな。
「今回送る花は初夏以降の花ですにゃ。ユリやバラは初夏、ひまわりは夏……既存の商人とはかち合わないですにゃ」
「そこも狙いだ。季節外れの花なら、他の商人も文句は言うまい」
今は二月の末。これらの花はまだ早すぎて市場には出回っていない。
「その通りですにゃ。きっと春に見る夏の花は、素晴らしく思えるはずですにゃ」
「なるほどー、それもそうですねー」
「花は実物なしに売り込むのは難しいからな。芸術祭はいい機会になった」
花は見栄えや香り、それに茎や葉の状態も大切だ。
現代では写真があったが、ここではそうも行かない。
それゆえ、花を売り買いするのに五年かかるという格言もあるくらいなのだ。
俺もナールから教えてもらったのだが。
と、言っている間に鉢植えのセットは出来たらしい。見事な花と立派な植木鉢のセットである。
「にゃ。では最後の仕上げですにゃ……!」
「「にゃー!」」
ニャフ族が鉢植えの土にさくさくっと木の札を差していく。
「かわいいですねー」
テテトカは懐から取り出した草だんごをもぐもぐしながら言った。
「植木鉢に描くのはなかなか大変だからな……」
「これなら手早く描けますにゃ!」
ニャフ族が最後に差したのは、この村で生産したささやかな証。
ぴよっとしてヒールベリーの実を持った、コカトリスの絵付き札である。
数週間後、イグナートからお礼状が来た。
やはり往復の連絡だとこのくらい時間がかかるのだ。なかなかの遠さである。
要約すると――。
「花は大変見事。ひまわりの種が待ち遠しい。次はこれこれを送ってくれないだろうか」
という継続取引の要請だった。
その手紙をステラに見せると、彼女はぼそりと呟いた。
「……食べるんですね」
「うん、食べるらしいな……」
「ま、まぁ……喜んでいるみたいですし!」
ぽりぽりぽり。
俺の頭では、ひまわりの種を直接採取して食べるコカトリスの絵が浮かび上がったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます